2018年12月28日 1557号

【労災死、奴隷労働の元凶 技能実習制度廃止こそ必要 入管法改定強行を糾弾する】

中身は白紙で強行可決

 安倍政権は12月8日、「外国人労働者の受け入れ拡大」に向けた出入国管理法(入管法)改定案を強行可決、成立させた。ところがこの改定では、「新しい在留資格をつくる」ということ以外、具体的には何も定められていない。受け入れ業種やその分野、在留期間、報酬の水準、日本語習得の支援・相談といった支援計画の中身だけでなく、受け入れ人数さえも法案にはなかった。すべての項目について白紙委任なのである。

 新制度では、初年度で5〜6割が技能実習からの移行と想定されている。野党は、奴隷的技能実習制度の問題点を指摘し続けたが、安倍首相は「知らない、答えようがない」などと回答を拒否。逃げ続けた。国会を強行採決で通してしまえば、中身は政府がどうにでもできるという、立法府の存在意義を否定するでたらめだ。力づくで強行した安倍政権を厳しく糾弾する。

最低賃金以下が失踪理由

 わずかの審議でも明確になったのは、政府自身この法案の土台となる外国人技能実習制度の実態把握をする気がまったくないことだ。

 政府は、失踪した技能実習生に聞き取りを行った聴取票を当初隠しつづけた。失踪の動機の多くが不当な低賃金であったことにもかかわらず、山下法相は聴取票自体に存在しない「より高い賃金を求めて」との理由で約87%が失踪していると断言した。技能実習生はあたかも身勝手なカネ目当て≠ナ失踪しているように印象づけようとしたのである。

 しかも、その聴取票のコピーをとることすら認めず、野党議員たちが手作業で書き写さざるをえなかった。議員らが失踪した外国人技能実習生2870人に対する昨年の法務省調査の元資料である聴取票を分析した結果、67・6%の1939人が最低賃金割れだった。法務省は、失踪の理由として「最低賃金以下」を0・8%、22人としており、まったくのねつ造発表であったことが明らかになった。

実習生の死者は174人

 採決強行後の12月14日になって、法務省は外国人技能実習生の死者数が2010年から8年間で174人にのぼっていることを初めて公表した。

 内訳は溺死(できし)25人、自殺12人、凍死が1人など。国別では、中国が一番多く、ベトナム、インドネシアが続いた。

 死亡原因が記されているものもある。

●ロープが絡まり漁具とともに海中に落下、そのまま行方不明になってしまった(インドネシア19歳男性、漁業)

●水道管の工事中に生き埋めになった日本人従業員を助けようとして巻き込まれた(フィリピン28歳男性、配管)

●パソコン用LANケーブルで首を吊って自殺していた(フィリピン33歳男性、婦人子供服製造)

●溶接中の爆発(中国22歳男性、溶接)

●鉄骨が崩れて下敷きになった(中国19歳男性、溶接)

●鍛造用プレス機に挟まれた(ベトナム22歳男性、鍛造)

 だが、その詳細な状況や原因は明らかにされていない。また、過去10年間に技能実習生を含む外国人労働者125人が労災死したとする厚労省データとの関連も不明だ。


20代、脳・心臓疾患の突出

 「技術を学ぶ」目的の制度で来日し死亡した労働者のうち118人が20代の若者たち。注目すべきは、死亡した実習生計88人のうち、死因で最も多いのが、脳・心臓疾患の23・3%。作業中の事故の20%を上回ったことだ(日本国際研修協力機構調べ、2015〜17年度)。外国人労働者や実習生を長年支援している指宿(いぶすき)昭一弁護士は「脳や心臓の疾患による死が非常に多い。長時間の労働による過労死が含まれていると思う」と指摘する。

 厚労省によると、日本人の脳・心臓疾患による労災請求(死亡)は2016年度は総数261件。うち10代はなく、20代が5件、30代は34件だった。脳・心臓疾患死亡の多くは中高年だ。

 若者中心である23万人の技能実習生の脳・心臓疾患の多さは際立つ。前述の失踪した実習生2870人に対する調査結果でも、10%(292人)が過労死ラインである月80時間を超える残業をしていたことがわかっている。

 技能実習制度の人権侵害や低賃金長時間無権利労働を温存したまま入管法改定は強行された。それどころか、助けを求める技能実習生と共に闘う労働組合や市民団体に対する受入企業、紹介団体、反社会的勢力による恫喝さえ横行している。技能実習制度廃止を求めると同時に、外国人労働者の権利を守る社会的運動を強め、国際人権諸条約にのっとった外国人労働者受け入れ制度をつくり上げる必要がある。

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