2019年01月04・11日 1558号

【たんぽぽのように(4) 平壌(ピョンヤン)冷麺 李真革(イチンヒョク)】

 「寒くなりましたね」とあいさつを交わす季節がやってきた。日本語を学びながら面白いと思ったのは、あいさつで天気に関する話をよくすることだった。一方、韓国ではあいさつとして食事をしたかを聞く。どの国でも貧しい時代があったはずなのに、韓国人の食べ物に対する観念と愛着は確かに違うようだ。

 そんな韓国で今年、突然話題になった食べ物がある。平壌冷麺だ。南北関係の進展に応じて、突然有名になった冷麺は、南北で表記も変わって南では「ネンミョン」、北では「レンミョン」と呼ぶ。しかし、冷たい麺料理の代名詞が冷麺ということについては、南と北の両方が同意するだろう。

 ところで、冷麺は今は暑い夏にたくさん見かけるが、もともとは冬の料理だった。冷蔵庫がなかった時代には、アイスクリームと同様に冬に楽しんだ。地域ごとに冷麺があるが、もともと寒い地域の食べ物である。

 中でも平壌冷麺が最も有名な理由は、古くから北部の中心都市としての役割をしてきたからだ。平壌は、冬には大同江(テドンガン)が凍ってしまうほど寒く、そのせいでさまざまな農作物の生産にも制約がある。南の地域に比べて食材が多様ではない。

 日本で北海道がそばの最大産地であるように、朝鮮半島でも北部では昔からそばをたくさん食べていた。平壌冷麺の麺の主原料は、そばだ。そして冷麺のスープは刺激的ではない。店によっては肉の味が強いものもあり、キムチの汁だけを使用するところもある。北のキムチは、塩辛や唐辛子粉などをあまり多く使用せず、味がさっぱりして薄い色を帯びる。白菜キムチといっても、キムチの汁が多く辛みのない水キムチもたくさん食べる。

 冷蔵庫がなかった時代、冷たいキムチの汁にそば麺を煮て入れて、キムチや大根などを載せて食べたのが冷麺だ。豊かな家庭では、肉でとった出汁にチャーシューものせて食べたと思われる。ソウル市内にある平壌冷麺の店の具とスープの味はさまざまだ。日本でも多くの焼き肉屋で冷麺を売っているが、在日の大多数が朝鮮半島南部の出身者であることを考えると、平壌冷麺の味とはかなり離れているだろう。

 南北関係の進展に応じて、北でも最も有名な平壌冷麺店である玉流館(オンニュグァン)の支店を南に誘致するという報道があった。70年以上の分断によって人びとの味覚も変わったので、玉流館の冷麺が南の人びとに愛されるかどうかは分からない。しかし、玉流館の冷麺を食べられるかもしれないということ自体が非常に大きなことではないだろうか。

 玉流館平壌本店で冷麺をいっぱい食べる日が来ることを願っている。

(筆者は市民活動家、大阪在住)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS