2019年01月18日 1559号

【日本政府の韓国元徴用工判決攻撃 根底に植民地主義 技能実習生は現代の徴用工だ】

 政府・メディアによる韓国元徴用工大法院(最高裁)判決への執拗な攻撃が続いている。その根底に日本近現代史を貫く植民地主義がある。日本の近代は、明治維新を機にアイヌモシリ(北海道)と琉球の併合から始まり朝鮮半島の植民地化、中国大陸への侵略からアジア太平洋戦争を経て敗戦に至る「植民地帝国」の拡大とその破綻の歴史であった。改めて今回の韓国大法院判決を読み解こう。

フェイクで嫌韓≠おる

 10月30日に韓国大法院が日鉄(現新日鐵住金)に強制動員された元徴用工被害者の損害賠償請求を認めた判決を巡って、日本政府は「国際法に照らせばあり得ない判断」(安倍首相)「日韓の友好協力関係の法的な基盤を一方的かつ根本から覆す」(河野外相)といずれも韓国が国際法や条約を守らない「無法国家」であるかのように印象操作を行った。これらは日韓条約が封印した日本の「植民地支配責任」を隠蔽するための政府のフェイク発言であった。マスコミも追随して、日韓条約締結の歴史的経過や大法院の判決内容にも一切触れることなく「日韓関係を根底から覆す判決」として一斉に報道し、嫌韓ムードをあおった。

植民地支配責任は棚上げ

 1943年のカイロ宣言は日本の植民地支配下で隷属状態に置かれた朝鮮の解放を謳(うた)った。カイロ宣言を踏まえたポツダム宣言の受諾で連合国に無条件降伏した日本の戦後処理のために1951年サンフランシスコ講和会議が開かれたが、会議への出席を米国に要請した韓国は「戦勝国」ではないとして参加を拒否された。被植民地国家であった韓国の参加は米英を中心とした西欧植民地宗主国の植民地支配の「正当性」を揺るがす恐れがあったからだ。

 そこでサンフランシスコ条約(日本国との平和条約)は日韓間の「財産処理」について「特別の取極(とりきめ)」により2国間交渉に委ねた。日本の「戦後処理」を定めたサンフランシスコ条約では、日本の朝鮮植民地支配の問題は取り上げられず清算もされなかった。

 その後14年の歳月を費やしてようやく1965年に日韓基本条約・請求権協定が締結された。締結に至る最大の争点は日本の36年に及ぶ植民地支配の評価であった。韓国政府が韓国併合以降の植民地支配が違法であり無効であると主張したのに対し、日本政府は条約締結によってはじめて無効となると主張した。日本側が合法的な36年間の支配からは「賠償」問題は生じないとしたのに対し、韓国側は36年間に及ぶ植民地支配の「賠償」を求めた。最終的に基本条約の条文で「もはや無効」と表現することにより植民地支配の責任が曖昧にされ、請求権協定でも「賠償」ではなく「独立祝い金」として韓国へ有償無償5億ドルの経済援助を行うという形で「決着」した。つまり、日韓条約も植民地支配責任を「棚上げ」にして締結されたのである。

今も続く差別排外主義

 日本政府は、「戦後処理」としてのサンフランシスコ条約の発効と同時に、朝鮮や台湾などの「旧植民地出身者」の日本国籍を一方的に剥奪し「外国人」という不安定な地位に押しやった。一方で占領下で廃止された軍人恩給を復活させ戦傷病者戦没者遺族等援護法を制定し軍関係者だけ手厚い援護政策を行った。しかしそこにも「国籍条項」を設け「旧植民地出身者」を対象から除外した。日本の戦後はこのような差別排外主義から出発した。現在も、外国人参政権問題や高校無償化からの朝鮮学校排除に見られる民族教育への差別などに顕著だ。

 2016年に成立したヘイトクライム対策法もきわめて不十分で、「適法に居住する」「本邦外出身者」だけを対象者とすることによってアイヌや部落差別に対するヘイトスピーチを対象から外し、さらにいわゆる非正規滞在者も除外して「合法的」に居住する在日外国人だけを対象とした。2013年、オスプレイ配備撤回を求める「建白書」を携え東京で声を上げた翁長前知事(当時那覇市長)らを右翼がヘイトスピーチで罵ったが、こうした沖縄ヘイト≠烽アの対策法では規制することができない。

改定入管法も同根

 そして、昨年末通常国会での入管難民法改定の強行採決である。

 70数年前、日鉄に強制連行された被害者の呂運澤(ヨウンテク)さんは、裁判で「平壌(ピョンヤン)で見た、2年間日本で働けば技術を習得できるという募集広告に応募して日本に来てみると、格子のはまった寮に収容され自由もなく常時監視の下で過酷な労働を強いられ、強制貯金の挙句賃金も支払われることなく放りだされた」と証言した。入管法国会審議で問題となった外国人技能実習生と全く同じ境遇である。

 政府は、入管難民法改定は労働力不足を補うための「外国人材」の受皿作りのためとしている。これは、かつて侵略戦争遂行に必要な労働力の不足を補うため朝鮮半島から労働力を計画的に「移入」した戦前の日本の引き写しだ。人間をあくまで労働力という商品としてしか見ず、アジア周辺諸国から再び過酷な労働環境に廉価な労働力を呼び込もうとしている。

 かつて「脱亜入欧」のかけ声のもとアジア蔑視によって立つエスノセントリズム(自民族中心主義)―排外主義から引き起こされた植民地主義。この「思想」が過去から現在に至る日本政府の政策に脈々と引き継がれている現実を、韓国大法院判決は私たちに突きつけたのである。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)





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