2019年01月18日 1559号

【無償化とは程遠い給付型奨学金/財政誘導で大学再編進める/「青年負債」をなくす社会へ 全国キャンペーン/首都圏なかまユニオン 伴幸生】

 年末、「給付型奨学金 最大年91万円 20年度から」という見出しの記事が各紙に掲載された。いよいよ「高等教育の無償化」が達成されるのか、とも受けとれる。しかし、具体的な内容を見れば「無償化」とは程遠い。首都圏なかまユニオンの伴幸生さんに寄稿してもらった。

 2020年度から始める給付型奨学金は、住民税非課税世帯(年収270万円未満)の学生が私立大学や専門学校などに通う場合、下宿生なら年約91万円、自宅生なら約46万円、国公立の場合は下宿生約80万円、自宅生約35万円を受けられる、というもの(年収270万円以上300万円未満の世帯は非課税世帯の3分の2、300万円以上380万円未満は3分の1)。

 しかし、その対象となる人数は報道では明らかにされていない。金額についても、下宿生の場合、自宅生との差額約45万円を家賃に充てるとしても、都市部では足が出てしまう。食費や交通費、通信費、書籍費など学生生活に欠かせない費用を満たせず、学業を妨げるアルバイト漬けにさえなりかねない。

 一方、対象となる学生を受け入れる大学などに対しては、(1)実務経験のある教員が卒業に必要な単位数の1割以上の授業を担当(2)理事に外部人材を複数任命(3)適正な成績管理(4)財務・経営情報の開示―の4条件を課し、「学問の自由」と「大学の自治」に手をかけようとしている。また、資産や収支などに関する別の3条件を満たさない「経営難」の大学は対象外とする。財政誘導で大学再編さえ進めるものとなっている。

 これでは、教育の機会均等を保障するはずの「奨学金」が進学の機会を奪うことにもなってしまう。

 首都圏なかまユニオンも加わる「教育の機会均等を作る『奨学金』を考える連絡会」では、「『青年負債』をなくす社会に 全国キャンペーン運動を」という呼びかけを開始した。

 給付型奨学金が創設されて、「ローンからグラントへ」と本来の「奨学金」制度に変える契機にはなった。しかし、30年来にわたる教育費公的支出抑制の一方で、高等教育の高学費化をローン市場の拡大で維持してきたことで「奨学金自己破産1・5万人」や連帯保証人・保証人への貧困の連鎖を生み出した。日本学生支援機構が、保証人の有する「分別の利益」(連帯保証人と違い、保証人は頭数で割った金額の支払い義務しかない)を無視して奨学金の借主の保証人に全額請求してきた行為が大きく報道されたが、これも教育の市場化に原因がある。

 総額1千万円超の借金を抱えている、という相談があった。就職先は長時間労働の連続で、半年後に退職。その後、非正規労働を続け、大学時代に借りた奨学金は「返還猶予」に。やり直そうと金融機関からの借入金で専門学校に通い、資格を取って介護関係の正社員になれた。返還を再開したが、給与水準が低く返還が困難となり、相談しにきた。しかし、生活を立て直すための選択肢は「自己破産」。貸与型奨学金が返還困難となっている20〜40代は現在も「無策」のままにおかれている。

 全国キャンペーン運動は、「青年負債」をなくす社会を創り出すために以下の施策を求めていく。(1)全国一律「最低賃金1500円」の実現(2)地方自治体「非正規職員の正規職化」や「生活賃金」導入による、貸与型奨学金を返還できる所得保障(3)地方自治体独自の給付型奨学金制度の拡充、公立大学学費値下げ(4)貸与型奨学金返還者の負担軽減に向け、延滞金の廃止、返還終了者への延滞金分の遡及還元、住宅ローンと同様の所得税控除、返還猶予期限10年から20年への期間延長と一定年限での返還減免―など。

 教育と雇用をつなぐ政策の実現へ節目の1年としたい。

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