2019年01月18日 1559号

【どくしょ室/情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー/津田大介著 朝日新書 本体910円+税/ネット汚染に呑まれるな】

 本書の著者は「メディア・アクティビスト」を自称しネット事情に精通する津田大介。著者は、フェイクニュースが氾濫する今日の状況を「ネット汚染」「情報環境汚染」と表現する。

 ネット汚染は主にSNSによって拡散される。フェイスブック、ツイッターやグーグルなどプラットフォーム事業者はネット汚染に大きな責任を負っている。

 米大統領選挙前にフェイスブックは「保守派」から批判を受けた。それは、フェイスブック社は話題のニュースを機械的に判断し表示しているとしていたが、実は編集者がいて保守系ニュースを排除しているのでは、との批判だった。批判を受け入れた同社は、大統領選でフェイクニュースを排除することなく、トランプ陣営に有利な状況を作り出すことになった。

 さらに、フェイスブックの個人データ約5000万人分がトランプ陣営の選挙コンサルティング会社に流出していたことが発覚した。この会社は、行動履歴データに基づいて「有権者の投票行動を変える」ことをうたい、英国のEU離脱国民投票やトランプ大統領当選に「貢献」したとされている企業だ。

 SNSを使った「世論工作」は世界各国で展開されている。2014年の総選挙では、安倍政権を支持する大量の機械的投稿(個人のオリジナルの投稿をコピーして投稿する)が世論をゆがめたという。

 プラットフォーム企業の責任は大きい。国内最大のニュースサイトとなっているヤフーのニュースに対するコメント投稿は、民族差別に基づく排外意識の強いものが多いと批判されてきた。著者は、ヤフーはアクセス数=広告売り上げ目当てにヘイトスピーチを放置していると思われてもしかたない、と指摘する。

 本書では、フェイクニュースやヘイトスピーチをネットから排除するための取り組みも紹介している。

 EUの行政執行機関である欧州委員会は2015年、「ヘイトスピーチに対する闘いに関する一般政策勧告第15号」を採択。人種、民族、障害、宗教、ジェンダーその他による憎悪や中傷の助長、扇動というヘイトスピーチへの対策を加盟国に求めた。また、フェイスブックなど4社との間でヘイトスピーチ投稿から24時間以内の削除・遮断という行動指針に合意し、一定の改善を実現している。

 こうした点では全く立ち遅れている日本でも、沖縄県知事選では玉城デニー候補などに対するフェイクニュースを地元紙がファクトチェック報道で否定することができた。名護市長選で基地反対の現職に対する悪質なフェイクニュースを許した反省からだという。
著者が言うように、ネット汚染との対決は民主主義を守る戦いだ。フェイクニュースによるヘイトの蔓延、人権侵害を許さぬ社会をめざそう。

  (N)
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