2019年01月18日 1559号

【東電旧経営陣に禁錮5年求刑/福島原発刑事訴訟 3月結審へ/情報収集・津波対策 怠る/最高経営層としての反省 皆無】

 放射能大量放出事故の巨悪を裁く福島原発刑事訴訟の論告公判が12月26日、東京地裁であり、検察官役の指定弁護士は東京電力の勝俣恒久元会長、武黒(たけくろ)一郎・武藤栄元副社長の3被告にいずれも禁錮5年を求刑した。

 論告は全文196ページ。5人の指定弁護士が代わる代わる、5時間半をかけて読み上げた。(3面に論告要旨

 「被告3人は『深くおわび申し上げます』と裁判官に向かって頭を下げた。この言動を虚(むな)しい気持ちで眺めていたのはわれわれ指定弁護士だけではない」。こう始まった論告は3被告の法廷での無責任な供述を厳しく指弾していく。「われわれは『できないことをやるべきだった』と言っているのではない。『できることがあったのに、それをしなかった』と言っている」

安全より経営

 キーワードは「情報収集義務」。津波高さ予測15・7bといった「重要な情報に接したことを契機として最高経営層に課せられる具体的義務があり、これを怠った」と批判し、「被告らが他者に物事を委ねず、自らの権限と責任で積極的に情報を取得し、これらの情報に基づいて的確かつ具体的な対策を提起し、実行に移してさえいれば、世界に例をみない悲惨な重大事故は防げた。それをすべきだったのだ」と断じた。

 続けて「土木調査の担当者は、有効と認められる津波対策工事の検討を進め、被告ら経営陣に繰り返し説明・進言していた」「勝俣被告が出席することから『御前会議』と呼ばれた『中越沖地震対応打合せ』は、会社の意思決定に向けた重要な情報共有のための会議だった」「防潮堤の設置や建物開口部の水密化、重要機器配置個所の浸水防止策、代替機器の高台配備をあらかじめ実施しておけば、事故は回避できた」等々と論じる。

 中でも、武藤被告が2008年7月31日、部下からの進言を「土木学会に検討してもらう」と覆したことについて「安全が第一であるはずなのに、『プラント停止リスクを避ける』ことを優先し、問題を先送りした」「当時、柏崎刈羽原発が運転できない状況にあり、東電の最高経営層に、多額の資金を使いたくない、福島第一原発も停止したくないという経営判断があったことは疑いない」と指摘したことは大いに注目される。

 最後に、被害者遺族の「母は東京電力に殺されたと思っている」との陳述を引用し、「被告らは何ら反省の態度を示していない。有利に斟酌(しんしゃく)すべき事情は何一つない。3人の責任の大きさに差をつける事情もない」として、業務上過失致死傷罪の法定刑上限の禁錮5年に処すよう求めた。

 論告を聞く間、武藤被告が首をひねり、口をとがらせ、腕組みをしたり、指定弁護士をにらみつけたりと落ち着かない様子なのに対し、勝俣被告は能面のごとく全く表情を変えず、傍聴席から「勝俣、寝るな」の声が飛ぶほど。武黒被告も無表情に時おりメモをとるだけだ。退廷の際、3人が傍聴席に向かって頭を下げることはなかった。

厳正判決署名広げよう

 報告集会で福島原発刑事訴訟支援団の佐藤和良団長は「2012年に告訴団を結成し、全国1万4千人以上が告訴・告発。2回の不起訴と2回の検察審査会“起訴”議決を受けて強制起訴し、ようやくきょうの禁錮5年の求刑までたどりついた。みなさんの力があったからこそ。これを判決として確定させたい」と語り、3万8147筆提出済みの厳正判決要請署名をさらに広げようと呼びかけた。

 翌27日の第36回公判では、被害者参加制度による意見陳述を代理人の海渡雄一弁護士らが行い、「事故を引き起こした者の責任が明らかにされなければ、命を奪われた被害者の無念は晴らされない。求刑の通り処罰を」と求めた。

 3月12、13日に弁護側の最終弁論があり、結審する。

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