2019年02月08日 1562号

【どくしょ室/9条の挑戦 非軍事中立戦略のリアリズム/伊藤真 神原元 布施祐仁 共著 大月書店 本体1600円+税/「安倍改憲」への対案を提示】

 本書は安倍9条改憲にへの対案として、3人の著者が「非軍事中立」の安全保障戦略を提起したものだ。

 「非軍事中立」を現実離れした理想論と考えるのは、改憲派ばかりでなく護憲派にも多い。「憲法9条は侵略戦争を放棄したのであって、個別的自衛権は否定されず自衛隊は合憲である」との解釈が幅広く浸透しているかのように思える。しかし、著者の一人である伊藤真弁護士は、「非軍事中立」こそ最も現実的な安全保障政策だと訴える。

 そもそも自衛隊は国民を守るために存在しているのではない。栗栖弘臣・元統幕議長は著書で「国民の生命財産を守るのは警察の使命(警察法)であって、武装集団たる自衛隊の任務ではない。自衛隊は抽象的な『国の独立と平和を守る』(自衛隊法)のである」と書いている。この「軍事の常識」を誰もが肝に銘じておくべきだと指摘する。

 そのうえで、日本が外国から攻撃される可能性を検証している。歴史的事実として、近代史において中国や朝鮮が日本を侵略しようとしたことはない。逆に日本が近隣諸国を侵略したのである。今日においても中国や朝鮮が日本を攻撃する蓋然(がいぜん)性は乏しい。「対話より圧力」を振りかざし、朝鮮との対決姿勢に固執する安倍政権の外交姿勢は、安全保障上のマイナスでしかないのである。

 「軍事力は抑止力だ」という主張については、日本の軍備増強が近隣諸国の軍事的警戒心を高め、かえって日本の安全を損なうリスクを増大させると批判する。また、「個別的自衛権のための戦力に限定すれば歯止めになる」という主張に対しても、「自衛」を口実とした侵略戦争がくり返されてきたこと歴史から、「現実的ではないどころか、極めて危険」だという。そして、安倍政権の改憲戦略は、「敵地攻撃能力」の保有や「核武装」など、際限のない軍拡に道開くものだと批判する。

 日本は地形的に軍事攻撃にきわめて脆弱だ。人口密集地が多く、石油化学コンビナートや原子力発電所を抱え、ひとたび攻撃を受ければ取り返しのつかない被害が発生する。軍事力に頼る安全保障の非現実性は明白ではないか。

 著者は、憲法9条2項の持つ積極性を論ずる。9条の世界的先駆性は2項の戦力不保持にこそあるという。自衛権についても、2項は外交交渉など「武力なき自衛権」しか認めていないとの解釈が素直だという。

 真の安全保障と危機管理は、危機を避けること、すなわち非軍事に徹し、攻められない国を作ることにある。それが最も現実的な国防のあり方なのだ。このような積極的非暴力平和主義は、ある意味壮大な挑戦である。だからこそ、国際社会で「名誉ある地位」をしめることができるのだと、著者は主張している。

      (N)
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