2019年02月15日 1563号

【未来への責任(267)歴史に基づく真の友好関係を】

 1月9日、日本政府は韓国政府に対し、30日以内の回答期限を切って、日韓請求権協定に基づく協議を申し入れた。新日鉄住金の韓国内にある資産の差し押さえ手続きが1月3日に完了したことを受けての措置だ。間もなくその期限を迎える。

 安倍首相は、昨年10月30日の大法院判決を「国際法に照らしてあり得ない判決」と批判した。しかし「国際法」なる法律は存在しないし、「国際法違反」と言うなら、いかなる条約・協定のどの規定に違反するのか明らかにすべきだが、安倍首相の口からそれが説明されたことは一度もない。

 日本政府が持ち出す「国際法」がハッタリでしかないことは次の事例からも明らかだ。在日米軍の特権的地位を定めた日米地位協定をめぐり、これまで「一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されない」(外務省ホームページ「日米地位協定Q&A」)と説明してきたが、「一般国際法」の根拠を示すことができず、ついに、「国際法」を削除せざるをえなくなった。一方、「法の支配が貫徹されている国際社会の中では、およそ考えられない」と判決を批判してきた安倍政権自身が、昨年12月25日には、国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を閣議決定した。自分たちの意見が通らなければ国際機関から脱退するという安倍政権に大法院判決を批判する資格はない。

 日韓請求権協定は「外交保護権を放棄したにすぎず、個人の請求権まで放棄することはできない」ことは日本政府の公式見解で、河野外相も国会質問でそれを認めた。その点で、大法院判決は請求権協定になんら違反するものではない。個人請求権の取扱いについての解釈の違いが生じて、日本政府が請求権協定に基づく協議申し入れに至ったのだ。

 韓国政府が応じるかどうか、あしかけ15年に及んだ日韓会談で解決できなかった問題が、1回や2回の交渉で解決できるとは思えない。被害者の損害賠償請求権に直接関わる韓国併合の法的評価についても、日本政府が合法、韓国政府は不法と最後まで一致しなかった。根本的な対立点を棚上げにした日韓条約を韓国の軍事独裁政権は国民の反対を戒厳令で抑える形で強引に締結した。しかし、「民主化とともに女性や労働者の人権意識が高まった以上、『65年体制』は限界に来ている」(クォン・ヨンソク一橋大学準教授)のである。

 唯一の生存者原告である李春植(イチュンシク)さんは94歳。存命中の解決が最優先される中、新日鉄住金に判決の早期履行を求めるとともに、会社が判決に従わなければ、差し押さえ資産の売却も検討せざるをえないだろう。

 2月15日、東京総行動の一環として、私たちは新日鉄住金本社に改めて、代理人とともに判決履行、解決交渉の申し入れを行う。当事者解決を積み重ねることが、民主化された韓国との新たな関係を築くことになる。植民地支配の歴史を消し去ったこれまでの日韓関係というキャンバスに、歴史に基づく真の友好関係という絵を描けるのは私たち日韓の市民だけなのだ。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)
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