2019年02月22日 1564号

【相次ぐ統計不正調査/アベノミクスの失敗を隠蔽するデータ偽装/経済成長は民主党政権時の3分の1以下】

 政府の発表する数値はあてにならない。とくに安倍政権自慢の「アベノミクスの成果」はでっち上げだ。成果を示す統計数値は都合よく加工されているとみなければなならない。データ偽装はアベノミクス第2ステージ(2015年)からより露骨になったからだ。その手口を検証する。

賃金上昇はウソ

 “21年5か月ぶりの高水準、これはアベノミクスの成果だ”―昨年6月、賃金の対前年比の増加率が3・3%になったことを安倍政権はこう宣伝し胸を張った。確かに、対前年比賃金増加率の発表数値は昨年1月から上がっていた。しかし、いかにも実感とはかけ離れた数値であり、本当にそうかと疑問視する声が当時から上がっていた。9月12日の西日本新聞は、「統計所得、過大に上昇/政府の手法変更が影響/専門家からは批判も」との見出しの記事を載せていたのだ。

 今回不正調査が発覚し、そのからくりが明らかにされた。一つが、500人以上の大規模事業所を3分の1の調査値を3倍にする「補正」のしかただった(本紙1562号参照)。同時にもう一つ、499人以下30人以上の事業所の調査方法も新方式に改めていた。それまで2〜3年で調査対象を全数を入れ替えていたものを、この時から半数弱を入れ替え、かつ対象が変化することで生じる数値の段差補正をしない方式に変えた。どれだけの効果を発揮したか。入れ替えなかった事業所だけで集計すれば、6月で1・3%にしかならない。21年ぶりという3・3%は水増しの結果だった。

 厚労省は、当然数値の違いを知っていた。なぜこうした操作をすることになったのか。そこには強い政治的意図が働いていたのだ。

麻生大臣の圧力

 15年10月15日、経済財政諮問会議が開催された。麻生太郎財務大臣はその場に資料「企業収益の動向/基礎統計の更なる充実について」を提出し、議論をリードした。麻生は、「毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があるということもよく指摘されている」などの問題点を挙げ、「ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたい」(議事録)と発言していた。その年の1月、30人〜499人規模の事業所は調査サンプルが全数入れ替えされ、14年度の実質賃金が3・0%減となってしまった。入れ替えしなければ業績が悪い事業所が消えていき、賃金は実態より高くでると言われている。その効果が念頭にあった麻生は、アベノミクス第2ステージ(15年9月)に向けてという議題の中で発言したのだ。

 同年11月4日の諮問会議でも「アベノミクス第2ステージに向けてA」として議論が続けられ、この時も統計に対する注文が他の議員からも出されていた。さらに、16年6月2日の諮問会議に提出された「骨太の方針2016」では、「経済統計の改善」の方針が明記されているのだ。

 内閣総理大臣を議長とする経済財政諮問会議は財政・経済政策の司令塔であり、ここでの議論が政権の方針となる。「具体的な改善策を早急に検討」との麻生発言や「骨太の方針」に沿い、いかに知恵を絞るのか、関係する省庁は敷かれたレールを走るしかない。

ごまかしのステージ

 事実を覆い隠すための数値偽装の例をもう一つあげる。アベノミクス第2ステージの目玉「20年を目途に名目GDP(国内総生産)600兆円達成」は、誰の目にも大ぼら吹きとわかるものだが、何の成果も上げられなかった第一ステージをごまかすには、大ぼらを吹かねばならなかった。

 この意を受けて内閣府は16年12月にGDPの算出方法を変更した。それまで付加価値を生まない経費であり対象としていなかった研究開発費などを新たに投資扱いに変え、加えた。その結果、31・6兆円のかさ上げ(15年度、研究開発費等で24・1兆円、その他7・5兆円)となった。特に「その他」は内容不明であり、闇の中にある。

 この操作により、民主党政権時(10年から12年)のGDP成長率6・1%の3分の1以下の成長率1・9%(13年から15年)だったアベノミクスの失敗を隠そうとしたのだ。

 アベノミクスは大企業と富裕層だけにしか恩恵を与えず、多数の国民にはしわ寄せのみが押しつけられている。安倍政権の姑息なデータ偽装もあり、その実態と問題点が不十分にしか報じられてこなかったため、アベノミクスの幻想が生きながらえてきた。だが、統計不正問題は「アベノミクスの成果」は虚偽データに基づいたものであり、その背景に安倍政権の策動があることを暴き出す糸口となった。この真相追及の中で、アベノミクスの失敗は誰の目にも明らかになる。厚労省だけに責任を押しつける安倍政権の幕引きを許さず、問題解明を徹底して求めよう。

高まる不信感

 統計不正問題の発端となった毎月勤労統計(毎勤)。不正調査は毎勤だけに収まらず、その後、基幹統計56のうち24に及んでいることが明らかになった。政府に対する国民の不信感は急激に高まっており、共同通信の世論調査(2月2、3日実施)では、政府の対応が「不十分」と答えた人が83・1%に達した。

 統計不正は政権の根幹を揺るがすものとして立ち現れている。国を挙げて真相解明すべき課題であるにもかかわらず、安倍政権はいかに隠ぺいするかに腐心している。真相を徹底究明し、アベノミクスに失敗の烙印を押し、安倍政権に引導を渡す時だ。
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