2019年03月01日 1565号

【21年ぶりの賃上げ率3・3%≠フ怪/2018年1月に集中する賃金データねつ造/「アベノミクスの成果」はこうして作られた】

 「戦後最長の景気拡大」と1月末に政府が発表したものの世論調査(2/12NHK)では「実感がない」66%。政府が公表する統計数値はことごとくあやしい。そう思って間違いない。「アベノミクスの成果、21年ぶりの賃金増」と宣伝された数値がまったくの水増しだった証拠が次々と出てきた。改めて検証する。

 毎月勤労統計で、東京都の労働者500人以上を雇用する事業所を3分の1しか調査対象にしていなかった不正は、小泉政権時代の2004年から続いていた。これによって賃金実態が低めに出るように操作されてきた。

 この不正を知っていた安倍政権は、統計結果を「復元」するとして、18年1月から、3分の1に減らした調査結果を3倍にして全数調査をねつ造した。これによって「賃金水準」が急に高くなった。

本当は0・6%程度

 しかし、それだけではなかった。18年6月の名目賃金増加率が確報値で前年比3・3%になったとする厚生労働省の公表資料。「利用上の注意」には以下の記載がある。「調査事業所のうち30人以上の抽出方法は、従来の2〜3年に一度行う総入替え方式から毎年1月分調査時に行う部分入替え方式に18年から変更した。賃金、労働時間指数とその増減率は、総入替え方式のときに行っていた過去に遡(さかのぼ)った改定はしない」。つまり違うサンプルをそのまま比較したもので、同じ事業所で3・3%上昇したのではないのだ。

 厚生労働省「毎月勤労統計におけるローテーションサンプリング<部分入替え方式>の導入に伴う対応について」には以下の説明がある。「従来、30人以上の調査対象事業所の入替えは、2〜3年ごとの1月に総入替えを実施していたが、その際、入替え前の事業所についても1月分まで調査し、新旧集計結果を比較し、その段差(ギャップ)を調整していた」。

 18年1月からの調査は一部の事業所の入替えであるため、入替えの前後で共通している事業所が存在する。その共通する事業所同士で比較した数字も公表されている。それによると、18年6月の名目賃金の前年同月比は1・3%増である。2%も乖離している。

 しかも「きまって支給する給与」を見ると共通事業所同士を比較した場合、18年6月は0・6%しか上がっていない。パートタイム労働者についてはマイナス0・2%だ。

あえて「激変」を放置

 ではどのようなからくりで「3・3%」の高賃金上昇が作り出されたのか?

 18年1月分の「きまって支給する給与」(常用労働者5人以上)は、旧サンプルで25万8100円、新サンプルは26万186円。その差は2千86円にもなる。そのうち部分入替え方式による寄与が295円に過ぎず、大半を占めるのが労働者推計のベンチマーク(基準)の更新だった。

 あくまでサンプル調査である毎月勤労統計は、総務省・経済産業省が5年ごとに実施している全数調査「経済センサス」をもとに事業所規模別労働者数を調整して、平均賃金を出している。17年までの賃金は09年経済センサスを使い、18年以降は14年経済センサスに「更新」して算出した。

 この変更により、18年1月の常用労働者数が、5〜29人の事業所では約186万人減少し、30人以上の事業所では約79万人増加している。人数の少ない事業所ほど会社の規模が小さいから、一般的に賃金も低い。そういった会社に勤務する労働者の割合が減れば、賃金の平均値は上がる。

 従来なら、変更による「激変」を避けるため、17年の賃金を14年センサスにより計算し直した数値と18年を比べるところを、今回敢えてしなかった。それが3・3%の水ぶくれの正体だ。

専門家は問題視

 さらに安倍政権は、賃金上昇を偽装するため、18年1月から『日雇い労働者』を調査対象から外していた。一般的に低賃金の日雇い労働者を調査から外せば、平均賃金が高く出るのは当たり前。この点は過去、総務省統計委員会の部会でも問題視されており統計委の民間委員からは再三、日雇いを含めた数値についても公表した方がいいといった意見が出ていたが厚生労働省はこれを無視した。

 厚生労働省が毎月勤労統計の調査対象入れ替え方法の変更を検討した経緯について、同省関係者が「国会でも賃金の話が出ており、何とかしなきゃいけないと思った」と証言した(2/14共同通信)。15年、安倍の子飼いの中江元哉首相秘書官(当時)に賃金伸び率の低下を説明した同省幹部は「アベノミクスで賃金の動きが注目されている」として急きょ有識者検討会を設け、短期間で結論を出すよう要請をはじめたことが暴露された(2月15日・同))。

官邸主導の「変更」

 学識者やエコノミストら委員6人を集めて開いた「毎月勤労統計の改善に関する検討会」は15年6月〜9月に6回開催された。委員の一人は「変更はハードルが高いという慎重な意見が多かった。議論が尽くされぬまま検討会は立ち消えになった」と証言している。中間整理では「引き続き検討する」とされたが、検討会はその後開かれないまま、17年に厚生労働省の申請通り総務省の統計委員会が変更を決定した。

 別の委員は、「サンプルを(全数)入れ替えるたびに数値が悪くなるそれまでのやり方に官邸か、菅(義偉官房長官)さんかが『カンカンに怒っている』と言って厚労省職員は検討会の最初から相当気にしていた」と明かしている。

 検討会の最終会合直後の15年10月、経済財政諮問会議で麻生太郎財務相はアベノミクスの成果を強調する一方、毎月勤労統計には「改善方策を早急に検討していただきたい」と求めており、この発言後に方向性が一変したのだ。

 この流れを見ると、賃金偽装は安倍官邸の主導で、厚生労働省の役人を脅しつけながら行われたことが歴然だ。アベノミクスの失敗を隠蔽し国民を騙す手口はあまりにも醜い。真相を徹底究明し安倍政権を退陣に追い込もう。最低賃金1500円、真の同一労働同一賃金を実現しよう。
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