2019年03月01日 1565号

【年越し派遣村から10年 現場の取り組みを共有/反貧困ネットワーク全国集会2019/自己責任℃ミ会を変えよう】

 年越し派遣村から10年経った現在も、“自己責任”という言葉が横行し、貧困と格差の拡大にストップがかかっていない。しかし、各分野から貧困に立ち向かう現場の取り組みもまた、粘り強く続けられている。

 2月16日、東京・上智大学で開催された反貧困ネットワーク全国集会2019では、貧困・格差拡大の実態が浮き彫りにされた。年収200万円以下のワーキングプアは12年連続で1000万人を超える。その一方、安倍政権下で「経済成長に資する財政運営」を名目に社会保障予算は3兆4500億円削減された。

 元ケースワーカーの田川英信さん(生活保護問題対策全国会議事務局次長)は「貧困ラインは1997年をピークに下がり続けている。都道府県別に子どもの貧困率と若者の非正規率を並べると、両者は見事にシンクロする。子どもの貧困の背景には世帯の貧困がある」と指摘する。しかし、「生活保護は権利になっていない。その原因の一つは福祉事務所の脆弱性。ケースワーカーの経験年数は平均3年で研修も足りない。今バッシングされている児童相談所と同じ構造。韓国では行政が地下鉄などに生活保護申請を勧めるポスターを出している。日本でも社会保障の周知義務を徹底すべきだ」。

 弁護士の猪股正さん(首都圏生活保護支援法律家ネットワーク共同代表)は自己責任社会をめぐって「非正規労働者が35%から40%になり、中流家庭の収入が減って貧困層に近づいている。『自己責任』で頑張ってきた人は他の人にも『自己責任』を要求する傾向が強い」とコメントした。2012年の社会保障制度改革で自助・共助が強調され、公助が後退した影響も大きいという。

反貧困がつなぐ運動

 集会には、関東各都県のほか宮城・富山・愛知・京都など全国の反貧困団体から参加があった。「川口市を中心に夜回り活動を始めた」(埼玉)「テントを設けて定期的に健康相談、法律相談を続けている」(神奈川)「年金も差し押さえられたため提訴し、一審で勝った。障害者年金の問い合わせも約50件。制度自体が知られていない」(群馬)「県営住宅の家賃未納世帯に対しヤクザまがいの人物を雇って催促。これに抗議し、減免を適用させた」(富山)と地道な取り組みを報告する。

 課題も提起された。「最近は地域での集いが一桁になることも。共通の大きな問題なのにそれぞれのテーマに閉じこもってしまい、表に出ない。若者の貧困ネットに力を入れてスタートさせたので、これを契機に掘り起こしたい」(京都)「10年前の集いは200人ぐらいであふれていたが、今は少ない。一方、奨学金・居住問題・非正規問題・子ども食堂などテーマはいくつもあり、反貧困ネットがつなげ、広がりを作りつつある」(愛知)

 当事者のリレー報告では、避難の協同センター代表世話人の松本徳子さんが、3月末に迫った区域外避難者の住宅支援策終了に危機感を募らせ、「原発避難者住宅問題」緊急ホットラインを設けて、個別相談支援に当たるとアピール。「避難者の生活の現状が一部しかつかめていないのに福島県は打ち切りの結論ありき。これでは4月以降路頭に迷う方が出てくるのは明らか。日本は先進国と思ってきたが、3・11を体験し、弱者が切り捨てられる社会なんだと実感した」と怒った。

広がる分野をたばねる

 「キャバクラは貧困ビジネス。労働現場のキャバクラ化が進んでいる」と警鐘を鳴らすのはフリーター全般労働組合・キャバクラユニオンの布施えり子さん。相談の大半が20代女性からで、“水商売”関連の労働事件は150件を超える。「何年働いても時給はわずかしか上がらない、辞めようとすると損害賠償金を請求され、暴力を受ける。親のリストラ、親族の病気などを背景に働く女性たちだが、『私たちがサポートされるのは心苦しい』と問題に上がってこないような意識を持たせていること自体が問題」と話した。

 集会のまとめは反貧困ネットワーク代表世話人で集会実行委員長の宇都宮健児さん。「派遣村当時とは異なる平時のもとで派遣村のような運動をどう作っていくのか、共通課題となった。貧困の分野もさまざまに広がっているが、そこをつなぐプラットフォームがない。その役割が問われている。われわれの強みは、研究室の中や学者の意見・論文ではなく、現場で闘い、立ち上がった人びとと連携していくところ、当事者の闘いを重要視するところにある。そういう運動で、政治と社会を変えていきたい。微力だが無力ではない」と決意を述べた。

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