2019年03月01日 1565号

【未来への責任(268)求められる植民地支配の清算】

 2月15日にドイツ・ミュンヘンで急きょ開催された日韓外相会談で、康京和(カンギョンファ)韓国外相は日本政府による日韓請求権協定に基づく協議申し入れに対し「われわれは引き続き検討している」と回答したにとどまった。

 同じ2月15日、東京総行動の新日鉄住金本社前行動を軸に、韓国で日本の3企業を相手に強制労働裁判を闘う訴訟団が結集し、一日行動を展開した。

 前日14日には新日鉄住金訴訟の原告代理人が記者会見を行い、「協議に応じない場合、売却命令を申請せざるをえない」と宣言。その上で臨んだ要請行動だったが、韓国から来日した原告代理人との面会を会社は拒否した。原告代理人は「これ以上待つわけにはいかず、帰国次第売却手続きに入る」と記者団に語った。三菱重工関連訴訟の原告・代理人・支援者も会社に対し、協議に応じない場合、差し押さえ手続きに入ることを通告。不二越本社は要請団をビル内にさえ入れず、原告代理人は「協議の意思がないことを確認した。できるだけ早く仮執行手続きに入る」と表明した。差し押さえや現金化は正当な司法手続きであり、被害者の人権を守ることを最優先せざるをえない以上、当然の対応だ。

 一方、代理人は手続きに3か月ほどかかるとし、「この期間が新日鉄住金が謝罪し、協議に応じることのできる最後の期間」とも述べた。1997年に釜石訴訟を和解解決した新日鉄住金が、機会を失わず、自主的解決を決断することを期待したい。

 今後も韓国では原告勝訴の判決が続き、企業の資産差し押さえや売却の動きが続くだろう。それは植民地支配の清算を棚に上げた日韓条約体制のほころびから生み出された必然的なものだ。

 昨年末、大法院判決を受けて弁護士・研究者・マスコミ関係者による判決の検討会がもたれ、私も出席した。ある報道機関の記者が「大法院判決はパンドラの箱を開けた」と批判的に述べていた。同様の主張をする研究者も少なくないが、その認識は間違っている。日韓条約は朴正熙(パクチョンヒ)大統領が戒厳令を敷き、国民の反対を暴力的に抑え込んで結んだもの。「パンドラの箱を開けるな」とは、軍事政権を倒し民主化を進めてきた韓国を独裁時代に逆戻りさせるに等しい主張だ。

 朴正熙大統領が日本軍将校であったことはよく知られている。その朴政権も日韓条約に「日韓併合は合法」と書き込むことはできなかった。それほど、植民地支配に対する韓国民衆の怒りは広く深かったのだ。日韓請求権協定に基づく経済援助は物品役務によるもので、現金が直接支払われたわけではない。朴政権がわずかではあれ資金を捻出し、一部被害者に「補償」を行ったのは、そうしなければ政権がもたないと判断したからだ。

 日本政府は「日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆す」(河野外相)と言うが、韓国政府は条約の破棄を通告したわけではない。危機をあおるのではなく、外交により条約の不十分性を補い、植民地支配清算に基づく関係を強化することこそが求められている。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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