2019年03月15日 1567号

【米朝首脳会談 協議継続へ/戦争の火種を一つ一つ取り除こう/核廃絶・平和の実現は市民の手で】

 2回目の米朝首脳会談が2月27、28日、開催された。だが、合意文書は見送られた。耐乏生活に苦しむ朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の民衆にとって経済制裁解除の先送りは耐え難い。東アジアの平和にとって核廃絶への足踏みは許されない。「安易な妥協をしなかったトランプ大統領を歓迎する」と成果がないことを喜ぶ安倍政権を批判するためにも、この結果をどうみるのか、明らかにする。

制裁解除と非核化

 会談最終日、予定ではランチを挟んで、共同声明への署名を残すばかりだった。だが、直前になってキャンセルされた。なぜ合意に至らなかったのか。

 トランプ米大統領は次のように話した。「彼ら(朝鮮)は制裁の完全解除を望んだ。彼(金正恩(キムジョンウン)国務委員長)は非核化したがったが、我々が望む部分よりも重要ではない部分だった。それでは、すべての制裁の解除はできなかった」

 経済制裁の全面解除に応じるには核廃棄措置が不十分。だから「共同声明」を見送ったというのだ。責任は「強気」に出た朝鮮側にあると印象付けた。

 これに対し、朝鮮の李容洪(リヨンホ)外相は、「全面解除は要求していない」と次のように説明した。

 「国連制裁の一部、民需経済や人民生活に支障をきたす項目の制裁を解除をすれば、寧辺(ヨンビョン)の核のプルトニウムとウランを含む全ての核物質生産施設を米国の専門家らの立ち会いの下で完全に廃棄すると提案した」。国連による11の制裁決議のうち5つの解除を求めた。だが、米国側は「寧辺以外にもう一つ」を要求。朝鮮側は、核・ミサイル実験を永久に中止する確約文書も出すと伝えたという。

 両国政府がすべてを語っているとは思えないが、通常なら事前の高官協議で調整される問題のはずだ。「寧辺」対「部分制裁解除」。これが予定された合意内容だった。だが米国側が最後にハードルを上げ、合意をつぶしたと見える。米国内の対朝鮮強硬派の巻き返しと見るべきだ。

  

危機深めるトランプ

 昨年、初の会談実現に至る過程で、トランプはオバマ前大統領のできなかった「対朝鮮和平」を最優先に、強硬派を抑え込み、共同声明を出すことができた。世界から歓迎された。今回の会談でも、トランプはもう一度手柄がほしかった。会談に先立つ2月15日、ホワイトハウスでの記者会見で、安倍晋三首相からの「ノーベル平和賞推薦状」に触れた。何らかの成果を手にするつもりで2回目に臨んだはずだ。

 ところが、トランプには「わずかな成果」ではすまない状況が生まれていた。

 トランプの元顧問弁護士マイケル・コーエンが連邦議会下院監視・政府改革委員会の公開公聴会で証言を行った。米朝会談と同じ日にわざわざ変更されたのだった。米国内では米朝会談より注目されていた。コーエンはトランプをかばい、連邦議会に対する偽証、選挙資金法違反、脱税などの罪で禁固3年の有罪判決を受け、2か月後には服役する。そのコーエンがトランプの犯罪行為(ロシア疑惑や不倫口止め買収など)を証言したのだ。

好戦勢力の巻き返し

 ただでさえ、中間選挙で民主党に敗北し、国境「壁」建設のために強引に出した非常事態宣言に対して、多くの州で訴えられ、好材料は何もないトランプだ。2回目の会談の成果はより大きなものでなければならなくなった。

 これを見透かしたのが、強硬派だ。署名式に先立つ拡大会議に突然参加したジョン・ボルトン大統領補佐官。「ボルトンが土壇場で核兵器だけでなく、生物・化学兵器についても報告義務を課すと言い出し、合意できなかった」との韓国元統一部長官のラジオインタビューが報道されている(3/1ニューズウィーク他)。新たな秘密核施設の名が持ち出されたとの報道もある(3/2共同)。いずれにしてもボルトンがハードルを上げたのは間違いない。

 「壊し屋」の異名を持つボルトンはイラク開戦を推し進めたひとり。外交より軍事を優先する好戦勢力の代表だ。トランプ政権に参加する以前の昨年2月、「北朝鮮への先制攻撃に関する法的検証」という意見を雑誌に投稿していた。

 トランプは、ボルトンがテーブルに着くことを許した。「安易な合意」との批判を避けるために、壊し屋に席を与えたのだ。こんなトランプに安倍政権は「安易な妥協をしなくて良かった。決断を歓迎する」とエールを送る。平和の歩みを引き留め、戦争屋の列に加わろうと言うのだ。

平和は市民の手で

 では、今回の会談は何も生まなかったのか。そうではない。1年前の一触即発の状態には戻らないことが確定したといえる。トランプは協議継続を口にし、米韓軍事演習中止も再度表明した。金正恩は「生産的な対話を続けていく」と国営朝鮮中央通信(3/1)に書かせている。朝鮮は16年からの経済発展5か年計画の実現には何としても経済制裁解除が必要となっている。トランプも来年秋の大統領選挙までには何らかの成果がほしい。決裂にはならない。

 だが、一方で平和は政治的取引に任せていては、実現しないことがより鮮明になった。

 東アジアの非核化をどのように実現するのか。17年に122か国の賛成で採択された「核兵器禁止条約」がある。2月25日、南アフリカが批准書を国連に届けた。条約が発行するには50カ国の批准がいるが、これで22カ国になった。日本、韓国、朝鮮に批准させれば、北東アジアを非核地帯にできる。南北交流をさらに進展させるための国連制裁解除も必要だ。

 安倍政権の大軍拡をやめさせること、戦争を準備する新基地建設をやめさせること、朝鮮敵視を転換し日朝交渉を進めること、こうした一つ一つが朝鮮戦争終結を実現する道だ。朝鮮半島のみならず世界に平和をもたらす最善の道だ。

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