2019年04月05日 1570号

【東日本大震災から8年 棄民加速のアベ「新復興基本方針」 市民、被災者連帯で責任追及を】

 福島原発事故から8年。安倍政権の「復興基本方針」見直し案が明らかになった。これまで続けてきた福島棄民政策を加速させるばかりで、被災者が切実に求める住宅支援等には一言も触れない。被災者切り捨て、グローバル資本ぼろ儲けの「新復興基本方針」を許してはならない。

避難者住宅要求は無視

 震災から8年の今、復興庁公式発表でなお全国47都道府県1004市町村に避難者は約5万2千人(表1)。新方針の内容は、多様化・深刻化する被災者・被害者の要求とはかけ離れている。福島帰還強要、「風評被害」撲滅など、被災者支援を切り縮め、安上がりに済ませたい安倍の意向に沿ったものばかりが並ぶ。

 

 「被災者支援」の項目では、「避難生活の長期化に伴う心身のケア、住宅・生活再建支援」を謳(うた)う。だが、安倍政権と内堀県政は、区域外避難者が切実に求めている避難先住宅の家賃補助を3月末で打ち切る。

 福島県内の震災関連自殺者は18年4月で101人と100人を超え、宮城54人、岩手49人と比べても際立つ(表2)。生活苦で自殺者を生みかねないと、被災者や「ひだんれん」などの支援団体が幾多の交渉で要求してきたが、国・県は完全に無視してきた。内堀に至っては区域外避難者との面会すら一度もしていない。

 母子避難者など、二重生活の中で極限まで追い詰められている人は多い。そのような区域外避難者の住宅支援全面廃止を打ち出しておいて、何が住宅支援なのか。国や福島県がどのように言い繕おうと「支援策」に値しない。

 「心の復興」も同様だ。「自立」の言葉で被災者に責任をなすりつけ、国も県も最低限の財政支援で済ませようと逃げ回る。専門家を派遣して講習会を開催する程度のどこが支援策なのか。

 地震・津波被害を受けた宮城・岩手両県の「住まいとまちの復興」でも「復興・創生期間中に仮設住宅の解消」を謳うのみ。仮設住宅を廃止して、行くあてのない高齢者など災害弱者を寒空に叩き出すだけだ。東京五輪を控え、最も安上がりな「被災者消し去り政策」に過ぎない。

広がり続ける放射能汚染

 「原子力災害からの復興・再生」の項目では「(1)事故収束(廃炉・汚染水対策)(2)放射性物質の除去等(3)避難指示の解除と帰還に向けた取組の拡充等(4)福島イノベーション・コースト構想を軸とした産業集積(5)事業者・農林漁業者の再建(6)風評払拭(ふっしょく)・リスクコミュニケーションの推進」を挙げる。

 (1)や(2)は、効果がないとわかっている対策で東京電力やゼネコンをぼろ儲けさせるものだ。8年で3兆円もの除染費用が大手ゼネコンなどを潤した。汚染水対策で凍土壁に国費345億円をかけたが、今も1日100dペースで増大。壁の維持だけで年数十億円の電気代がかかり続ける。

 (3)は賠償打ち切りによる被災者切り捨てそのものだ。

 (6)は新たな「放射能・被曝安全神話作り」をオブラートに包んで表現し、福島県民を騙すものだ。福島原発では、ことし1月までの1年間で新たな放射能放出量が約9億2200万ベクレルと、前年の放出量約4億7100万ベクレル(東電公表資料によりNHKが推計)の2倍近くにも増大した。コントロールどころか、汚染は拡大し続けている。「原子力緊急事態宣言」は現在も解除の見込みもないのだ。

 (4)の福島イノベーション・コースト構想とは、廃炉を口実として、福島原発の立地地域を中心にロボット産業などを集積させるというものだ。

 廃炉自体は必要だが、事故で飛び散った燃料デブリの取り出しなど、安倍政権が進めているのは必要性も実現可能性も低いものばかり。高線量のデブリの取り出しに成功したとして、それをどこに運びどこで保管するつもりなのか。原発近くの地域でも帰還が可能なように見せかけるための壮大なパフォーマンスだ。

 そんなことに使う予算があるなら、被曝しながら作業を強いられている原発労働者の健康被害対策などに使うべきだが、新方針は原発労働者など存在しないかのように一言も触れない。

何がなんでも帰還強要

 昨年策定の廃炉計画に一度はチェルノブイリのような「石棺」方式が盛り込まれたが、「地元地域をあきらめろということか」という内堀知事の猛抗議によりわずか1週間で削除された―そんな内幕が報道で明らかにされた(TBS「サンデーモーニング」3/10放送分)。

 福島帰還以外の政策・方針は誰のどのようなものであろうと絶対に許さないという内堀県政の頑なな姿勢。これこそが、「避難者でも帰還者でも残留者でも一律に支援」するという子ども・被災者支援法と避難者・被災者支援策の解体につながった。非人道的な帰還強要を強行し、聞く耳もまったく持たない内堀県政は打倒以外にないが、その内堀が圧倒的な得票で再選される福島の厳しい現実もある。背景には安倍政権や内堀県政を変えても被曝の現実自体は変わることがないという県民の深いあきらめがある。

 だが、被曝の現実があったとしても、最大限の防護策を充実させることは政治の転換によって可能だ。放射能は安全で問題はないとの新「安全神話」を許さず、防護策を取らせるだけでも福島を明るい方向へ進ませることはできる。

 対県・対政府交渉、モニタリングポスト撤去阻止、国・東電の刑事責任・賠償責任追及などの闘いを続ける市民、被災者と連帯し、食品測定や健康診断の継続・拡充など、住民本位のあらゆる政策を総動員する政治に転換すること。それが8年を過ぎた被災地福島の課題である。

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