2019年04月12日 1571号

【未来への責任(271)2国間条約で解決はしていない】

 旧日本製鉄(新日鐵住金=4月1日、日本製鉄に社名変更)に強制動員された被害者の正確な数は不明だが、釜石製鉄所の「死没朝鮮出身労務者未給与金預貯金等明細書」(32名)、同「朝鮮出身労務者未給与金預貯金等明細書」(658名)、大阪工場の「朝鮮人労務者に対する未払金供託報告書」(197名)、八幡製鉄所の「朝鮮人労務者等に対する未払金の供託についての報告書」(3042名)に合計3929名分の未払賃金の供託名簿が残されていた。この名簿を手がかりに2001年9月から5次にわたる調査が韓国内で行われ、183名(生存者48名・遺族135名=当時)の被害者の消息が判明。その被害者を代表する形で4名が2005年に韓国の裁判所に提訴した。その後2013年には7名の生存者が追加提訴した。しかし当初の裁判原告4名のうち3名が亡くなり、追加提訴の原告で唯一生存されていた李相周(イサンジュ)さんも今年2月に亡くなった。生存者はついに釜石製鉄所の李春植(イチュンシク)さんひとりだ。

 昨年の韓国大法院判決直後、日本政府は日本の関係企業を集めて説明会を開催し、独自には補償に応じないよう露骨な圧力を加えてきた。新日鐵住金もこれに追随し、弁護士や支援者らの前には一度も顔を見せることなく今も門前払いを続けている。 しかし戦争中同様に強制動員を行った企業でも、中国人強制連行では2009年に西松建設が360名の被害者と和解、2016年には三菱マテリアルが基金を拠出し、補償や未判明者の調査、記念碑の建立など和解を実現した。最高裁も2007年の西松建設事件の判決時に、裁判上請求はできないが被害者の請求権自体は消滅していないとして会社に被害者と自主的に解決することを勧告した。最高裁が自発的な解決を勧告しているのだから、政権の圧力があろうとも新日鐵住金はコンプライアンス(法令遵守)に基づき強制動員問題を解決できる。

 安倍政権は原告が行った強制執行手続きに対して「実害」が出れば関税引き上げ等の対抗措置を取るなどと公言した。日中共同声明・日韓条約などの2国間条約で本当に解決していると言うのであれば企業の独自補償は政府として止めなければならないはずだ。しかし中国人強制連行の和解時には介入しなかった。これは明らかなダブルスタンダードだが、日本政府も「慰安婦」問題が起こった時の河野談話、またその後の村山談話では植民地支配の反省を述べ、サハリン残留韓国人・在韓被爆者の問題などについて一定の施策を行った。このこと自体が日本政府も日韓条約ですべてが解決したとは考えていない「証拠」だ。

 今回の事態はこれまで植民地支配責任を曖昧にしてきたいわゆる「1965年体制」のほころびがついに覆い隠すことのできない事態を迎えたということ。まず、現在韓国内で訴えられている日本企業は直ちに判決に従い、日本政府は強制労働問題の根本的解決のために韓国政府と真摯に話し合うことを始めなければならない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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