2019年04月19日 1572号

【コラム見・聞・感/2019地方選の隠された争点】

 2019地方選前半戦(4月7日投開票)のメインとなる知事選に異変が起きた。自民党が候補を一本化できず、分裂選挙が相次いだのである。知事選が全部で11しかないのに福井、島根、徳島、福岡の4県で分裂選挙となった。

 福岡では3期目を目指す現職知事に、地元出身の麻生太郎副総理兼財務相が対立候補として元厚労官僚を擁立。党本部はこの厚労官僚を推薦した。福井でも西川一誠知事に不満を持つ党本部が元副知事を擁立、推薦した。島根では自民党系から3人が立った。

 北海道でも、知事選候補を官邸主導で鈴木直道前夕張市長に一本化する動きに対し、道議らが国交省北海道局長擁立を画策、これに失敗すると今度は地元選出の橋本聖子参院議員擁立を目指した。「北海道新聞」が自民党北海道連を「内戦状態」と報じるほど熾烈な党内闘争だった。

 安倍政権下で自民1強が長期化、政権交代の可能性が消えたことも自民党が安心して「党内権力闘争」に集中できる状況を生んでいる。福井や福岡では過去、県連大会で内紛が起きており、過去の「遺恨」が選挙の分裂に反映している面もある。だがいずれの地域でも、地元事情を無視して党本部や県連執行部が一方的に立てたい候補者を上から押しつけようとして混乱が起きたところが共通する。

 最近の自民党内権力闘争や分裂選挙が中央対地方という形で展開されていることには注目すべきだ。党本部による東京一極集中、地方切り捨て政策はますます露骨になっており、自民党地方組織に不満が鬱積している。北海道の元自治体首長の自民党員(本紙1547号の本コラム参照)が4月3日付け「赤旗」に登場、JR路線維持のため知事選で石川知裕さん(野党統一候補)を応援すると発言、周囲を驚かせた。自民党内の中央対地方の闘いは収拾不能な段階を迎えつつあり、今回の地方選の隠された大争点だ。

 最近話題になっている映画『翔んで埼玉』を観た。原作が1980年代の古い少女マンガ、しかも埼玉県を田舎扱いし、からかう映画としてメディアで興味本位に紹介された経緯もあって多少不安だったが、東京に差別される埼玉や千葉が東京に闘いを挑むという、ユーモラスな中にも興味深い作品だった。

 こうした映画がヒットするのもここ最近の地方の中央に対する「政治的空気」が反映している。埼玉県民、千葉県民が大挙して都庁になだれ込むラストシーン。東京が五輪騒ぎにうつつを抜かし地方無視を続けるなら、このラストシーンはいずれ現実のものになるだろう。 (水樹平和)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS