2020年04月03日 1619号

【GPIF 市民の資産をギャンブルに 年金積立金 20兆円以上の大損害/「コロナ被害」を市民に回すな】

 新型コロナの感染拡大が世界経済に大きな影響を与えている。株価の暴落はリーマンショック以上、東京株式市場も年明けに比べ日経平均株価は約25%、6千円近く下落した。巨大投資ファンドの一つであるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の損失は「22兆1千億円」(3/17衆院厚労委)とも指摘されている。19年4月から1年間の収支では、12月までの収益約12兆円の倍ほどの損失が1月から3月で生じたことになる。政府は野党議員の質問に、この期間の損失額は「7月に報告が出る」と逃げ、答弁しなかったが、当然試算はされているはずだ。

 ただでさえ、「少子高齢化」を口実に「マクロ経済スライド」で年金給付水準を低下させている中で、年金原資をギャンブルに投入するなどもってのほかだ。

世界最大の投資ファンド

 そもそもGPIFは日本銀行とともに世界最大の投資ファンドであり、日本の株式市場は「池の中に二頭のクジラ」がいると言われる。池ではクジラが大きすぎて生きていけない、さらに池自体も壊わしかねないという警告なのだ。

 この巨額の公的資金がアベノミクスの株高演出に利用されているのは周知のことだ。18年3月末時点でトヨタ自動車に1兆9497億円、ソフトバンクに1兆1345憶円が投入され、株高を維持していたのは1例に過ぎない。



 なぜ巨額資金を株式に投入するGPIFができあがったのか。

 年金制度は払われた保険料で年金が給付される賦課方式になっている。これまで保険料収入が給付より多く、残った保険料の積立金が増えていった。この年金積立金の使途をめぐっては、グリーンピア(政治家の利権で全国各地に建設されリゾート施設。経営破綻し約4千億円の損失計上)や目的外流用などさまざまな不祥事が起きてきた。批判をかわすために設立されたのがGPIF(06年4月)だ。

 GPIFが扱う厚生年金および国民年金の積立金は「(運用は)長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」と両年金法に規定があるものの、投機的運用であることは間違いない。

 さらに安倍政権は14年4月、GPIF運営委員会(当時)のメンバーを政府の意に沿う人物に入れ替え、資産運用割合を国内債券(国債など)60%から35%へ減じ、国内株式12%から25%へ、外国株式12%から25%へ、外国債券11%から15%へと変えさせた。株式はあわせて24%が50%へ。投機的運用を倍増させたのだ。結果「コロナ」による世界同時株安は、ギャンブル性を増したGPIFの損失を一層膨ませることになってしまった。


日本の積立水準は突出

 年金積立金はどうあるべきか。年金給付総額は約55兆円(18年予算)であるのに対し、年金積立金は現在169兆円。給付総額の3年分に相当する。他国と比べるとこの水準は高い。英国やドイツの積立額は数か月分。フランスはほとんど積み立てていない。

 保険料と給付が釣り合えば問題は生じない。少子高齢化により保険料が減少し、給付が拡大すると積立金を取り崩すことになるが、3年分も積み立てる必要はない。5年に1度は行われる年金財政検証でも「概ね100年後に年金給付の1年分程度の積立金が残る財政計画」を定めている。

 いまGPIFは安倍政権の意向を反映し、株価維持の役割を果たそうとしているが、世界的な株価下落の中では逆に世界最大の投資ファンドであるために損益も最大級となるばかりだ。しかもそれは、市民の年金の原資を食いつぶすことなる。「コロナ被害」を年金に及ぼすことなど許されない。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS