2020年04月03日 1619号

【東リ偽装請負裁判 企業と行政に忖度の不当判決 ただちに控訴へ】

 3月13日、神戸地裁第6民事部(泉薫裁判長)は、派遣法40条の6「労働契約申し込み見なし」制度に基づいて東リ(株)との雇用関係の地位確認を求めた日本初の裁判で、原告側の請求をすべて棄却する不当判決を言い渡した。

 労働契約申し込み見なし制度とは、派遣先が違法派遣((1)禁止業務派遣(2)無許可派遣会社(3)期間制限違反(4)偽装請負)と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申し込みをしたものと見なされるもの。リーマンショック後の派遣労働者の大量解雇に対する全国的闘いの中で、民主党政権下で勝ち取られた労働者保護の制度だ。

 東リの違法派遣は18年に及ぶ。請負会社(L.I.A社)は、社長一人だけの会社で事務所は社長自宅。何の専門性も独立性もない。労働実態としても、労働者の混在は解消されているものの、直接の業務指示や労働者の配置の決定や変更も指示を受け、どう見ても東リの一部署として組み込まれた偽装請負状態であった。

 しかし、裁判所は、原告の供述や膨大な証拠を「裏付けを欠く」として否定する一方、反証のない東リの主張のみを採用した。会社側の準備書面をなぞったような事実認定を行い「偽装請負という状態にあったとはいえない」と判断した。原告弁護団も「数え上げればきりがない程の強引な判断の繰り返しであり、『何が何でも偽装請負は認めない』という意思が垣間見えるものである。派遣法における労働者保護の趣旨を生かそうとする姿勢が全くみられず、許しがたい判断である」(抗議声明)と厳しく批判する。

法適用を妨害する行政

 背景には、労働行政の大幅な後退がある。労働契約申し込み見なし制度は、2012年の派遣法改定で盛り込まれたが、3年の猶予期間が置かれ、施行は2015年10月だった。その間厚生労働省は、派遣と請負の区別に関するQ&Aを発し、企業を「指導」するとともに、偽装請負の摘発には極めて消極的な姿勢を取った。東リ事件でも繰り返し兵庫労働局や厚生労働省に要請行動を行ったが、最終結論は「違法を認められない」であった。法律の適用を行政が阻害しているといえる。

 神戸地裁には、法律の労働者保護の趣旨と現実を直視した判断が問われたが、行政と企業に忖度し司法としての独自判断を放棄した。到底許されない判決であり、原告5名は控訴を決意し意気軒昂である。

 判決言い渡し後の記者会見と報告集会では、原告全員が不当判決を糾弾し、高裁での勝利に向け全力で闘っていく決意を述べた。勝たせる会もともに闘う決意だ。
(東リの偽装請負を告発し直接雇用を求める L.I.A 労組を勝たせる会・井手窪啓一)

原告 信じられない判断に怒り 前を向き闘う

 2020年3月13日は私の人生の中でも忘れられない日となりました。

 今まで一番悲しくて辛い日が裁判闘争中に母親を亡くした日です。2つ目が判決の日、そして3つ目が解雇された日です。

 私は、裁判で必ず原告の主張を認めてくれて東リが行ってきた脱法行為を糾弾してくれると信じていました。判決文を改めて読んでみても、裁判所が原告の主張を真っ向から全否定して、被告の行為を認め容認した極めて悪質な不当判決です。まさか裁判所がこんなに信じられない判断をするとは思いませんでした。あなた方、非正規労働者は黙って働いていればいいんだよ≠ニ言われたようで怒りが込み上げて仕方ありません。

 私たち原告5名は何も悪いことはしていません。これからも最後まで闘いしっかり前を向いて歩いて行きます。

(L.I.A労働組合書記長・藤井啓志)



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