2022年1月14日 1706号

【沖縄県 辺野古訴訟が暴いたもの/国の違法をとめる裁判すら起こせない/地方自治を破壊する国の自作自演劇】

 「地方自治の未来に取り返しのつかないダメージをあたえる」。辺野古新基地建設をめぐり、県が国土交通大臣の関与は違法と訴えた裁判で「訴える利益がない」と門前払いになったことに、沖縄県玉城デニー知事はそうコメントした。「国と自治体は対等」と地方自治法が改正されたのは2000年。国と沖縄県との一連の訴訟が示しているのは、地方自治を20年以上昔に引き戻す国による自治破壊だった。

自治権の回復は不可能なのか

 辺野古新基地建設をめぐる国と沖縄県との訴訟は、これまでに9件起きている(表)。和解・取り下げの4件を除けば、係争中のものは1件(表の8)。県が2019年8月、行政事件訴訟法(行訴法)に基づき、国土交通大臣が県の埋め立て承認撤回を取り消した裁決の取り消しを求め提訴したものだ。この控訴審判決が12月に出た。福岡高裁那覇支部は一審に続き県の訴えを退けた。

 判決は、裁決の取り消しを求めることができるのは「法律上の利益を有する者」に限られており(行訴法第9条原告適格)、「自己の法律的利益に関係のない違法を理由として取り消しを求めることはできない」(同第10条1項)とする。そうであれば、取り消しを求めることができるのは沖縄防衛局だけであり、彼らが取り消しを求めるはずはないから、この場合、行訴法で裁決の違法性を問うことはできなくなる。

 県は、国交大臣の裁決により自治権や公物管理権の侵害が生じるから原告になりうると主張したうえで、「国が審査請求し、国が裁決する形をとりさえすれば、是正の指示や代執行すら必要とされる司法審査を回避できるということになれば、地方自治の本旨にもとることは明らかである」(控訴審代理人陳述)と地方自治の観点からも「国の関与」に対する司法判断の必要性を強調していた。

 400ページ以上に及ぶ訴状には、活断層や軟弱地盤の存在による工事の不確実性、サンゴ・ジュゴンなどの環境保護の不十分性など県が行った取り消し処分の根拠が詳しく記載されている。

 だが結局、司法は裁決の内容に踏み込まず、原告資格についてのみ判断した。この判決が確定すれば、違法な裁決がなされても自治体は救済される方法がなくなってしまうのだ。

違法ななりすまし@e認する司法

 これまで沖縄県は裁決の違法性を一貫して主張してきた。正当な裁決となれば、地方自治法に定める国地方係争処理委員会による審査(250条の13)、裁判提訴(251条の5)の対象としない「裁定的関与」となり、裁決の内容を問う機会を失うからだ。

 なぜ違法なのか。国交大臣の裁決は沖縄防衛局が行政不服審査法(行審法)を悪用した違法な審査請求によるものだからだ。

 行審法は「簡易迅速かつ公正な手続」により、一般私人の権利救済を目的とした制度。国の機関が固有の資格で処分を受けたものには適用されないことを明記している。にもかかわらず、国の機関である沖縄防衛局は国の資格ではないと偽り、国交大臣に救済を求めた。

 多くの行政法研究者がこの私人なりすまし≠批判する中でも、国交大臣は沖縄防衛局の申請内容に問題はないと県の決定を覆した。違法な審査請求に基づく裁決である以上、違法なのである。

 また行審法は、請求のあった審査を誰が行うかを定めている。基本はその機関の最上級行政庁だ。知事の処分を審査するのは知事としている。ところが、法定受託事務(法律で自治体の業務とされたもの)の場合は特例として地方自治法の規定(第255条の2)で所管大臣があたる。副知事が行った処分は、知事が審査し、知事の採決に不服がある場合に限り大臣が審査することができる。

 県は副知事が行った承認撤回処分にかかる裁判(表の7)の中で、沖縄防衛局の私人なりすましとともに、国交大臣の審査庁なりすましの違法性を主張してきた。しかし最高裁は20年3月、この私人なりすましを適法だと認めてしまった(副知事の処分に対する審査庁の問題は言及せず)。そのため、今後、地方自治法に基づいて違法性を問う道が断たれてしまった。

 県は並行して行訴法に基づいて裁判を起こしたのだが、冒頭紹介したように門前払い扱いだ。もし控訴審判決が確定すれば、「法定受託事務について、政府は、裁決の形式をとることによって容易に自治体の判断を覆すことができ、自治体側には救済の途がまったくなくないことになる」(21年8月玉城知事意見陳述)。国の違法行為を制止する手がなくなるのだ。

県の訴訟はすべての自治体の問題

 そもそも、辺野古をめぐる国と県の訴訟は、公有水面埋立法(公水法)の免許権限のある県の審査結果に国が従わないことから生じた問題だ。

 公水法は、みんなの海を埋め立ててまで土地を造り出す必要性があるのか(第4条1号)、その工事や完成後の土地利用で環境破壊や災害が起きないか(第4条2号)―この要件を満たさない場合は承認してはならないとしている。これは最低基準。つまり要件を満足しても必ず免許(承認)を与えなければならないことはない。知事の裁量権を認めているのだ。

 13年に仲井眞弘多知事が行った埋め立て承認を見直し、15年承認取り消し(翁長雄志知事)、18年承認撤回(謝花喜一郎副知事)、そして21年サンゴ採取許可撤回、設計変更不承認(玉城知事)。国は裁判ではなく身内で処理できる行審法を悪用して、県の処分を否定する。であれば国は県の審査のどこが間違っているのか示すべきである。にもかかわらず、これまでの訴訟の中では一切示さない。司法もまた、国と県の判断の相違について、踏み込んで審査したことはない。

(クリックで拡大)


 「国は、最初から県の主張を封じることを目的に行審法制度を用いたものであり、このことは県の主張する埋め立て事業の問題点がいかにも本質を突き、理にかなっているため、真正面から争うことをさけたものである」(控訴審意見陳述後の玉城知事コメント)はこの間の事態を的確に言い表している。県は最高裁で争う(12/28上告)。

 国は県のサンゴ移植許可撤回を取り消す農水大臣裁決を出した(12/28)。またもや裁定的関与だ。全国知事会は沖縄県などから提案のあった「裁定的関与の見直し」を地方分権強化の提言書に取り入れた。辺野古新基地建設は沖縄を破壊するだけではない。全国の自治体が狙われているのだ。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS