2022年02月18日 1711号

【「ヒトラー投稿」ネタに立憲叩き/維新が仕掛けた泥仕合/コロナ失政から注意をそらす】

 一体いつまで続けるつもりなのか―。立憲民主党の菅直人元首相と日本維新の会の不毛なバトル、いわゆるヒトラー投稿問題である。維新は「我々を怒らせたらどうなるか徹底的に思い知らせる」と息巻いているが、このしつこさには裏がある。維新の本拠地・大阪の「コロナ惨状」から注意をそらしたいのだ。

一方的にかみつく

 ことの発端は、菅直人元首相が1月21日に行ったツイートだった。日本維新の会や創設者の橋下徹元大阪市長の政治手法を以下のように寸評した。

 〈橋下氏をはじめ弁舌は極めて歯切れが良く、直接話を聞くと非常に魅力的。(中略)主張は別として弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす〉

 橋下はすかさず反論した。〈ヒットラーへ重ね合わす批判は国際的にはご法度。(中略)まあ今回は弁舌の巧みさということでお褒めの言葉と受けっておくが〉。ツイッターではよくある応酬だが、これが現実のバトルへと発展した。

 仕掛けたのは維新である。藤田文武幹事長は「ヒトラーになぞらえて公党や私人を批判することは国際社会ではほとんど許容されない」と主張。立憲民主党本部に出向いて抗議文を提出した。足立康史衆院議員は政府を追及すべき国会質問の場を使って、菅批判・立憲批判をくり広げた。

 極めつきは馬場伸幸共同代表の「アポなし突撃」だ。衆院議員会館内の菅事務所を大勢の記者を引き連れて訪問。菅元首相に抗議文を直接手渡し、投稿撤回と謝罪を求めた(2/1)。

 あきれたことに一部のメディアは維新の主張に同調している。フジテレビの情報番組(1/24)では、メインキャスターが「国際的な視点や価値観」に反するとして、「ヒトラーやナチスになぞらえるというのはどんな例えでも使っていけないもの」などと語った。

ナチスとの共通点

 同番組に出演した吉村洋文大阪府知事は「国際法上あり得ない。どういう人権感覚をお持ちなのか」と述べた。弁護士出身の吉村に問う。それなら該当する国際法を示すべきだ。まあ無理だろう。ヒトラーやナチスに例えて批判することを禁じた条約や国際慣習法など存在しない。

 国際的に「ご法度」なのは、ヒトラーやナチスを賛美したり、その行為を肯定的に評価することである。たとえば、憲法「改正」への方法論として「(ナチスの)あの手口に学んだらどうかね」と述べた麻生太郎(2013年7月。当時副総理)の発言が典型だ。

 麻生発言は国際的な批判を浴びて撤回に追い込まれた。数少ない擁護者が「行き過ぎたブラックジョークだったのではないか」とコメントした橋下徹(当時、日本維新の会共同代表)であった。毎度のことながら、ダブルスタンダードとしか言いようがない。

 そもそも橋下は、市長時代に思想調査目的の職員アンケートを業務命令として実施したり、口元チェックまでして「君が代」斉唱を教職員に強要してきた。この思想統制、人権侵害体質は現在の維新府政・市政に引き継がれている。

 厳密に言うと、橋下の詭弁術はヒトラーのそれとはタイプが違う。それに、かつてのナチスのような熱狂的な支持を維新は人びとから得ているわけではない。大阪の維新人気は既存の政治に対する失望に起因する消極的な支持である。

 それでも維新の政治手法や根底にある優生思想はヒトラーに通じるものがある。だから、渡邉恒雄・読売新聞グループ本社主筆ら保守派の論客のまでがヒトラーに例えて危険性を指摘してきた。維新が菅ツイートにいきり立つのは、それが図星だからである。

隠したい惨状

 維新は今、「ヒトラー投稿」を逆手に取るかたちで立憲攻撃に励んでいる。今夏の参院選をにらんだ作戦だが、自身の足元はボロボロだ。府政・市政を握る大阪の新型コロナウイルス感染状況が全国最悪の惨状を呈しているのだ。

 内閣官房の資料によると、大阪府の重症者数は1月1日〜1月30日までの累計で5216。東京都が244(都の基準による)だから桁違いに多い。死亡者数の割合(人口100万人あたり)は全国平均の倍だ。これは対策の遅れによるものである。リスクの高い患者を見守る体制ができていない。吉村がぶち上げた大規模医療・療養センターはつい先日まで未稼働だった。

 このままでは維新の失政が全国に知れ渡る―。そこで注意をそらすための場外乱闘を仕掛けたのだろう。「落ち目の立憲、不人気の菅直人が相手ならメディアは味方に付く」との計算があったに違いない。あくどい手口だが、これが維新の通常運転なのだ。 (M)

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