2002年03月29日発行732号

【プライバシーが危ない / 住基ネットという国民総背番号制 / 忍び寄るハイテク監視社会】

 巨大なコンピューター網が個人情報を管理し、国民のプライバシーは公権力に筒抜けになる――SF小説の話ではない。テクノロジーの発達がそうした国民監視装置を可能にした。その土台となるシステムが住民基本台帳ネットワークという形で今年八月から稼働しようとしている。住基ネットという国民総背番号制は、私たちに何をもたらすのか。

今年八月スタート

 住民基本台帳ネットワークとは、九九年に成立した改正住民基本台帳法にもとづき、国民一人ひとりに十一桁のコード番号を付け、個人情報をコンピューターで一元管理するというもの。

図:住基ネット概念図 国(10省庁)から(財)地方自治情報センターへ照会、同センターから国に情報提供。同センターは全国ネットワークと接続、ネットワークの下に都道府県、都道府県の下に県内ネットワークを通じて市町村に接続

 具体的には、住民票に記載されている個人情報のうち、▽氏名▽性別▽住所▽生年月日▽住民票コード▽変更期日などの付随情報−の六項目をデジタル化、都道府県や市区町村と各省庁を結んだコンピューターネットワークを使い全国的に管理・流通させる。

 国民はこのシステムに載せられることを拒否できず、十一桁の住民票コード(番号)で管理される。各人の番号は、今年八月のシステム稼働までに、居住する自治体から通知される。

 以上が住民基本台帳ネットワークの概要である。事業を進める総務省は「省庁事務の効率化」を目的に掲げ、国民には次のようなメリットがあると説明している。いわく、居住地以外の自治体でも住民票の写しが取れる、引っ越しの手続きが転居先の自治体だけで済む…。

 もちろん政府がこの程度の住民サービスのために巨額の費用(ネット構築に約三百二十億円、年間運営費に約百八十億円)をついやすとは考えられない。住基ネットの目的は別のところにある。

 改正住民基本台帳法が成立した九九年八月、当時連立政権の一員であった自由党の小沢一郎党首は「住基ネットは国家的な危機管理、治安のために使用すべきだ」と語っていた。支配層の本音はここにある。住基ネットの本質は国民総背番号制であり、ハイテク監視装置の土台となるシステムなのだ。

国民監視システム

 「氏名・生年月日程度の登録なら問題ない」と思われるかもしれない。だが、住基ネットを媒介に行政機関が保有する各種の個人情報がコンピューターネットワークで結合されればどうなるか。巨大な個人情報データベースが完成する。税務、教育、医療・年金、犯歴など、多種多様な個人情報が住民票コードを入力するだけで瞬時に判明してしまうのである。

 いったんデータベースができてしまえば、その情報量・利用範囲はなし崩し的に広がっていくに違いない。現に米国では、年金の管理のために導入された社会保険番号が納税者番号などほかの行政機関にも利用され、今では何をするにも必要な事実上の国民背番号になってしまった。

 しかもデータベースに蓄積されるのは、行政が保有する情報だけではない。改正住民基本台帳法では希望者にICカードを交付することになっているが、政府はその普及をはかるためにカードを使ったサービスを民間に開放することを推奨しているからだ。

 新聞紙八百ページ分もの記憶容量を持つICカードには多くの機能を持たせることができる。すでに一部の自治体で試行されているように、一枚のカードでどこでも買い物ができたり、預金を引き出せたり、鉄道や高速道路の料金支払いにも利用できれば、それは大変便利であろう。

 しかしICカードの利用記録はデータベースに保存され、いつまでも記憶される。どこで何を買ったか、どの駅を何時何分に降りたか、収入やローンはいくらあるか等々、個人の生活や行動パターンは公権力に筒抜けになり、それを分析すれば一定の思想動向までチェックできる。まさに究極の国民監視システムが「便利さ」をうたい文句に作られようとしているのである。

治安強化策の一環

 住基ネットや盗聴法など、日本政府は国民監視システムの整備を矢継ぎ早に進めてきた。これには経済のグローバル化が大いに関係している。

 大企業が国際競争を勝ち抜くための「構造改革」路線は、大多数の国民生活を犠牲にして進行する。諸外国の実例が示すように、新たな貧困層の増大は犯罪やテロリズムの温床になりかねない。

 こうした国民統合のほころびを取り繕う治安強化策の一環として、政府は国民監視システムの整備・強化を急いでいるのである。

 コンピューターによる国民管理というと何やら強権的なイメージを抱いてしまうが、現実にはICカード普及策のように「利便性」を前面に押し立てながらソフトに進められる。わずかな便利さとひきかえに、プライバシーが公権力に握られ、自由に物も言えない社会−−そうした「格子なき牢獄」の到来を許してはならない。     (M)

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