2002年11月22日発行764号
ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ

『三線とニシキヘビ』

 三線(さんしん)と三味線(しゃみせん)はどこが違うのか、みなさんはどう答えるかな?

 「大きさが違う」。なるほど。三味線が三尺一寸、約九十二cmなのに対して三線は二尺五、六寸、約七十七cmとかなり小ぶりだ。「演奏方法も違う」。それも大正解。三線はバチを使わず爪をはめてつま弾く。

 でも、一番の相違点は皮なのだ。三線にはビルマニシキヘビの皮が張られているが、三味線には猫や犬の皮が張られている。実は、三線と三味線はもともと同じ楽器だったが、皮をめぐって、それぞれ違う楽器になっていった歴史を持っている。

 三線が中国から琉球に伝わったのは十四世紀から十五世紀。その当時から今も変わらず、三線にはビルマニシキヘビの皮が張られている。沖縄には大型のヘビはいない。琉球は中国をはじめとするアジアの国々との交流によって、ビルマニシキヘビの皮を手に入れてきたのだ。

 一方、十六世紀半ばになって琉球から輸入した三線を演奏した日本本土の人たちは、この皮の問題で悩み続けた。バチで弾くと皮が破れる。かといって皮を取り寄せようにも日本はアジアの国々と交流がなかったし、仮に手に入っても、それはあまりにも高額だった。そこで太鼓や鼓に使っていた馬の皮を使ってみたが音色は思わしくなかった。長い試行錯誤の末、皮は身近に手に入れることのできる猫や犬の皮に落ち着いた。三線は三味線になったのだ。

 近年、日本は空前の三線ブームの中にある。三線が日本全国に広がるのはとてもいいことなのに、今度は三線に皮の問題が起こった。ビルマニシキヘビが、「ワシントン条約」で「取引を規制しなければ絶滅のおそれがある種」に指定され、輸出する国がベトナムだけになってしまったのだ。三線の値段の高騰や、ニシキヘビの密漁が出るのではと心配したが、ヘビを食べる習慣のあるベトナムで養殖が進み、ヘビ皮の安定供給の見通しがたった。ひとまず安心だ。

 しかし私が一番心配しているのは、「三線こころ」が三線と共に広まったかどうかだ。

 「大和の床の間には日本刀が飾られているが、沖縄の床の間には三線が飾られている」

 沖縄が産んだ国際的音楽研究家、故山内盛彬はこうたとえた。

 沖縄の人々にとって三線はただの楽器ではない。人々は三線が手に入らない戦後の混乱期の中でも、缶詰めの空き缶に軍用ベッドを削った棹をつけ、パラシュートのヒモから抜いた絹糸を張った「かんからさんしん」を弾き続けた。児童文学の名作『かんからさんしん物語』(嶋津与志著・理論社)を読めば、もしくは海勢頭豊さんが音楽を担当した同アニメ映画を観ると、「三線のこころ」が良く分かる。

 今、「こころ」が広まったかどうか、試されようとしている。

ホームページに戻る
Copyright FLAG of UNITY