2002年11月29日発行765号

【国際戦犯民衆法廷へ公聴会 アフガニスタン国際戦犯民衆法廷実行委共同代表 前田朗東京造形大学教授 市民の手で戦争犯罪裁く】

 二〇〇三年十二月の「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」開催に向けていよいよ十二月十五日には東京で第一回公聴会が行われる。この法廷の意義について東京造形大学の前田朗教授に聞いた。(十一月十五日、まとめは編集部)


◆民衆法廷がめざすものは。

 一次的にはアフガニスタンにおけるアメリカの戦争犯罪を裁くことです。昨年十月以降の米英連合軍の空爆それ自体が違法です。また、空爆の中で大量の難民が発生し、民間人・民間施設が攻撃され、捕虜の虐殺や虐待も出ている。これらの戦争犯罪も合わせて裁かれます。ブッシュ大統領を被告人とし、合衆国の外交政策や軍事戦略が俎上(そじょう)に乗せられる。戦争協力をした小泉日本国首相にも当然議論が及ぶことになります。

写真:顔写真

 同時に、現代の世界に不自然な歪みを生んでいる資本、情報、軍事のグローバリゼーションを問題にしなくてはなりません。内戦や飢餓などがからんで人民が抑圧され、場合によってはテロに追い込まれていく。テロ対策の名による軍事力行使は、グローバリゼーションが生んだ深刻な問題を見えなくしてしまいます。民衆法廷は、テロの温床がどこにあるのかという現代社会の基本問題を問いかけるものになります。

日本の平和運動を示す

◆日本で開く意義は。

 日本は、アメリカと安保条約という軍事同盟を締結し、海上自衛隊による給油という形で参戦をした加害国でもある。他方で、アフガン復興支援会議の準備段階から国際的な役割を果たし、今年の一月には東京で支援会議を開いた。加害国と被害国の双方にとって独特の位置にあるのが日本です。

 日本の平和運動は、日本の市民がいや応なしに加害の側に立たされるのを止められなかった。さらに、テロ特措法から有事法制へ、国民保護法制へ、という動きがあり、憲法に違反して日本の国内法を軍事体制化する試みが一貫して続けられている。それに対する反対運動の一環としてこの法廷を位置付けることができるのではないでしょうか。

運動が力を生み出す

◆民衆法廷は現在の戦争を止める力になるのでしょうか。

 国際社会から戦争をなくし、アメリカの大量破壊兵器もなくしていく。そのために運動をしなければいけません。もちろん、こういう運動がただちに次の戦争を止めるという抑止力にはならないかもしれない。

 アメリカは従来の国際安全保障の枠組みの外に出て、世界の平和と安全を勝手に引きまわしています。これに対して声を上げなくてはいけない。日本も憲法九条を空洞化し、自衛隊法すら無視するという無法状態です。九条に息を吹き込むのは日本の平和運動の長期的な課題です。

 この間ヨーロッパでも、アジアでも、イラク攻撃を阻止するための運動が盛り上がっていて、アメリカの政策決定者たちもそれを意識せざるをえない。今回の国連安保理決議に至る過程でのフランス政府の動きのように、国連の意思決定メカニズムにも影響を与えています。

 アメリカのベトナム反戦運動は戦争の現実を見てようやく盛り上がりましたが、現在は、戦争が始まる前に広がっています。

 日本でも、反戦の意識を持って何とかしたいと考えている若者はいます。そういう可能性を見ながら取り組みをしていきたい。

市民参加の公聴会を

◆市民の参加を強調されていますが。

 これまでのラッセル法廷(ベトナム戦争)もクラーク法廷(湾岸戦争)も、どちらかというと知識人主導・法律家主導の運動でした。これらに学びながら、そうではない運動も広げていきたいと考えたとき、念頭にあったのは、二〇〇〇年末に開かれた女性国際戦犯法廷です。準備、調査、設営等々の仕事を日本の女性が中心になり、アジア各国の女性たちと一緒にやってきた。民衆主導で、平和運動やその他様々な運動に携わってきた人たちが手をとりあい、従来の枠を超えた広がりを作りたいと思います。

 学習運動も重要になります。国際政治のメカニズム、国際法、有事法制…。それは他人事ではない、日本の民衆自身にかかわる問題ですから、勉強しながら、運動を組み立てていく。勉強した人が周りに伝えて広げていく。それを年間の運動として全国各地で走っていきたい。

 その運動が公聴会です。この点はクラーク法廷に学びたい。各地の公聴会で、ジャーナリストたちが持っている情報を発掘し、NGOの声を吸い上げる。勉強会をやる。写真展をやる。各地で情報を集め、みんなで証拠を残し、記録を作る。いろんな人たちに協力を求め、各地で担い手になってもらえる人を作っていく。それをまとめあげれば法廷を運動としてやっていけるかなと考えています。

 日本国憲法には、締結した国際条約を誠実に遵守するという規定があります。国際人権規約やジュネーブ条約、あるいは様々な人権条約、子どもの権利条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約…。これらを守らなきゃいけない。平時における国際人権法と、戦時における国際人道法は両方とも、人権、人道の問題ですから、民衆法廷の運動を広めることで新しい展開ができるかと思っています。国際法と日本国憲法を使いながら、日本の運動を広げていきたいと思います。

◆ありがとうございました。

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