2005年08月19日発行900号

【表現活動が犯罪になる / 相次ぐ不当逮捕の背景は / 戦争のための言論弾圧】

 ビラ配りやポスター貼りをしただけで逮捕。雑誌記事が名誉棄損にあたるとして出版社社長を逮捕−−意見表明の活動を犯罪として摘発する事件が相次いでいる。これらの不当逮捕は、国家権力やグローバル資本への異議申し立てを狙い撃ちにしている。つまり、戦争国家づくりの一環としての思想処分なのだ。


「日の丸・君が代」反対のビラ配りを監視する警察
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 暴露本シリーズで知られる出版社「鹿砦(ろくさい)社」の社長が、神戸地検に名誉棄損容疑で逮捕・起訴された。理由は同社の書籍やウェブサイトの記事内容がプロ野球の元球団職員らを中傷したというもの。地検は鹿砦社本社など3か所を家宅捜査し、書類や編集・経理用のパソコンなどを押収した。

 これは明らかな不当逮捕であり、言論弾圧である。そもそも名誉棄損は被疑者の身柄を拘束するような事件ではない。地検は「証拠隠滅のおそれがあった」と言うが、鹿砦社の社長は任意での事情聴取に応じていた。逮捕する必要性は何もない。

 ところが、神戸地検は逮捕情報をマスメディアに事前リークし、逮捕劇の一部始終を報道させるという「見せしめ」の演出まで行っている。政治的意図にもとづく国策捜査としか思えない。

ビラ配りだけで逮捕

 鹿砦社の一件だけではない。意見表明の活動を標的とした不当逮捕が各地で続出している。ここでは代表的なケースをみていこう。

▼2003年4月、杉並区内で公園の公衆便所に「反戦」「戦争反対」などの落書きをした青年が現行犯逮捕された。その後、建造物損壊罪で起訴され、懲役1年2か月・執行猶予3年の有罪判決が下った(現在、最高裁へ上告中)。

▼昨年2月、「イラク戦争反対」のビラを自衛隊宿舎に配った市民3人が住居侵入容疑で逮捕され、75日間拘束された。東京地裁は「無罪」判決を下したが、検察側は控訴し、事件は決着していない。

▼昨年3月、共産党機関紙を休日に宣伝配布していた社会保険事務所職員が、国家公務員法違反(政治活動の制限)容疑で警視庁公安部に逮捕された。公判では、公安部がこの職員をビデオで盗撮するなど徹底尾行していたことが明らかになった。

▼昨年10月、三菱自動車岡崎工場の職員が、岡崎市野外広告物条例違反・軽犯罪法違反の容疑で愛知県警公安3課に逮捕された。容疑は「岡崎工場の閉鎖問題にからみ、同社や同労組を批判するポスターを電柱等に貼った」というものだった。

 いずれのケースをみても、公安当局が対象者を拘束するために「犯罪」を好き勝手に作り出していることがわかる。こんなでっち上げ逮捕が許されるなら、国家権力はいつでも市民の自由を奪えることになる。公安当局の「暴走」は、そうした事態を既成事実化するために、確信犯的に行われているのではないか。

狙いは反戦言論つぶし

鹿砦社社長の逮捕を伝える新聞
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 事実、一連の不当逮捕は「イラク戦争反対」など国家やグローバル資本にとって「好ましからざる言論」を狙い撃ちにしたものだ。

 鹿砦社の件もそうである。マスメディアは鹿砦社が芸能人のプライバシー侵害で数々のトラブルを起こしてきたことばかりを強調し、肝心な部分を伝えていない。それは同社の暴露本シリーズがイラク戦争の実態告発にも力を入れていたということだ。

 昨年2月に発売されたブックレット『もうひとつの反戦読本』は、イラクで殺害された日本人外交官の遺体写真を掲載し、外務省から出版中止の警告を受けている。また、雑誌『紙の爆弾』8月号では、米兵が撮影した写真を使ってイラク人の虐殺の実態を特集していた。

 マスコミ統制の枠外にいる鹿砦社のこうした報道姿勢が、公安当局を刺激していたことは間違いない。先に今回の逮捕・起訴には政治的意図があると書いたが、本当の目的はイラク反戦の言論つぶしにある。鹿砦社の一件は「戦争政策を批判する者は言論分野でも取り締まる」という権力側の意思表明なのだ。

市民すべてが標的

 街頭での意見表明に不当な弾圧を加え、出版物の内容を犯罪化する。そして、話し合っただけで罪になる共謀罪の新設へ−−一連の動きは戦争国家づくりの策動が思想処分の段階に踏み込んできたことを示している。

 にもかかわらず、マスメディアの反応はきわめて鈍い。同業者である出版社の社長が記事内容を理由に逮捕されたというのに、「スキャンダルを売りものにする連中の自業自得」といわんばかりの態度で傍観している。

 不当逮捕による言論弾圧は、「暴露系出版社」や「活動家」だけの問題ではない。国家権力は「国策」に従わぬすべての言動を思想処分の対象にしようとしているからだ。憲法が保障した「表現の自由」を空文化させてはならない。それは民主主義の死を意味している。    (M)

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