2005年10月28日発行909号

【鉄建公団訴訟原告・佐久間忠夫さん半生記 / 人らしく生きよう 国鉄運転士の戦後60年 / 74歳現役、闘う労働者魂】

出版記念会で語る佐久間さん(10月15日・東京)
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 鉄建公団訴訟原告の佐久間忠夫さんが『人らしく生きよう─国鉄運転士の戦後60年』と題する本を10月15日に出版した。出版記念を兼ねた団結まつり前夜祭で佐久間さんは「本を売るのではなく運動を売る」と本を出した意義を力説した。


本紙連載を単行本化

 この本は、本紙6面に2000年9月から今年7月まで122回にわたって連載された『生きる』に加筆・修正し、「刊行にあたって」(鉄建公団訴訟原告団酒井直昭団長)と「あとがき」、年表などを追加したもの。鉄建公団訴訟原告団とビデオプレス、国労に人権と民主主義を取り戻す会、MDS新聞社のメンバーらで刊行委員会を設置し刊行にあたった。

 本書は、4歳で母を亡くし、14歳で国鉄に入り、戦中・戦後の動乱期から今日まで駆けぬけてきた74年の波乱万丈の半生記と言っていい。戦時下の少年時代、妻との出会い、分会運動、反マル生(生産性向上運動)闘争、国鉄の分割・民営化と解雇、映画『人らしく生きよう』上映運動、場面はちがっても常に自ら判断し立ち向かってきた生きざまは、機智に富み、様々な教訓を与えてくれる。

 ルポライターの鎌田慧さんは「仕事ができて仲間思い、口がわるいが気っ風がいい。誇り高き『鉄道員』の洒脱(しゃだつ)な一代記である。解雇されても闘争を楽しむ、この心意気と大らかさは、国労の現場闘争がつくりだしたものだ。読後感は爽やかである」と推薦の言葉を寄せた。

販売を開始した団結まつりでは、販売105冊、注文105冊と滑り出しは上々だ。

前夜祭での佐久間さんの発言を要約する。

「今はおかしな時代」

  敗戦の年の4月25日に14歳で国鉄に入った。8月15日、「天皇の詔勅」を聞いた。ただ、戦争が終わったのか、それだけ。一番に思っているのは、今まで良かったことがグルッと変わって、当時の大人は何をやってたんだ。今まで偉かったおまわりさんは逃げ回っているし、国は無政府状態。ただ、誇りに思うことは、国鉄は一日も休まず走ってた。

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 俺は15歳で機関助士。20歳の運転士と二人で、新鶴見機関区から大宮まで50両の貨車を引いて、物資を運んでいた。日本の復興を支えていたんだ。

 「佐久間も映画に出たり、本を出したら終わりだ」と親しい口の悪い奴は言う。でも、和歌山にいる90歳を超える先輩(本多立太郎さん)は戦争出前噺を千回やっている。俺も映画『人らしく生きよう』で全国52回上映会に行った。日本にはすばらしい人がいっぱいいる。しかし、残念ながら一つの力になり切れていない。俺に言わせればそこが課題だ。

 今はおかしな時代だ。70年前、80年前も今の状況に似ていないか。いいことがいいと言いきれない世の中だ。政府・企業に反対できない。そういう労働組合もない。

「運動を売っていく」

 尼崎で107人が亡くなった。俺たちが国鉄分割・民営化を阻止できていれば、こういう事故は起きなかった。JRは新型ATS─Pを導入すれば事故は起きないという。そうじゃない。これは速度をオーバーした時に利くもの。俺も運転士をやってたから分かるが、速度オーバーしたらどうするではなく、制限速度をオーバーしない運転士を作ることが大切だ。

 事故を起こした電車に2人の運転士が乗り合わせていた。職場に電話したら「職場に出て来い」。とんでもねえ。国鉄時代なら誰に言われなくても、救助に行ったものだ。国鉄時代は安全がすべて。儲けじゃなかった。

 今はもの言えぬ職場になっている。はっきりものを言うと会社も手も出せない。黙っていちゃいけない。まじめな人は声が小さく、やさしい。悪い奴、ずる賢い奴ほど大きな声を出す。それで負けちゃう。俺はいつでも大きな声で言ってきた。「佐久間じゃなくて悪魔だ」なんて言われた。まじめさ、やさしさも大事だが、それだけでは力にならない。

 民営化は強い者が勝つ仕組みだ。一人一人の人間が認め合える、そんな人間社会を作っていきたい。俺も74歳だが、まだまだ現役。靴を作るパラマウントで心を込めて靴を箱に詰める仕事をしている。

 今さら本を出して、とか妻が俺の悪口をいっぱい書いている。人らしくというのはいいことも悪いこともすべて出していくこと。それが俺の生き方。運動の一環として、ちょっと肥やしの種になればいい。本を売るのじゃなくて運動を売っていきたい。

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 『人らしく生きよう−国鉄運転士の戦後60年』は耕文社より発売 本体1800円+税

 問い合わせは、刊行委員会(電話03-3511-3386 FAX03-3511-3387)、もしくは耕文社(06-6933-5001 FAX06-6933-5002)まで。

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