2005年12月02日発行914号

【生活保護費国庫負担率引き下げ 生存権脅かす小泉】

 厚生労働省は11月4日、「生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会」において、(1)生活保護費の生活扶助・医療扶助および児童扶養手当の国庫負担割合を現行の4分の3から2分の1に引き下げる(2)住宅扶助は全額一般財源化して地方の負担とする、などの「見直し」案を提示した。これが実施されれば、2005年度予算ベースで9180億円の国庫負担引き下げとなる。

 これは、国と地方財政の見直しと地方分権の「三位一体改革」で焦点となっている補助金削減に関連して、安倍官房長官が6300億円を7省に割り当てたことに対する厚生労働省の対応とされている。だがその狙いは、「社会保障制度全般の一体的見直し」の下に「保護の適正な実施」「就労及び自立の促進」をうたった骨太方針(経済財政諮問会議、2004年度)に沿って社会保障の根本的切り捨てに踏み出すものだ。

自治体はいっせいに反発

 厚生労働省の案によれば、生活保護費(2兆5245億円)のうち、生活扶助(8451億円)と医療扶助(1兆2839億円)については、国が2分の1、都道府県と実施自治体がそれぞれ4分の1を負担する。住宅扶助(3272億円)は実施自治体の一般財源とし、児童扶養手当は国と実施自治体が2分の1ずつ負担する。これによって国庫負担は、生活扶助2090億円、住宅扶助2450億円、医療扶助3210億円、児童扶養手当1080億円などの削減となる。

 しかも厚生労働省案では税源移譲に言及しておらず、自治体からは「三位一体改革の名を借りた地方への負担転嫁だ」(谷本石川県知事)と、いっせいに反発の声が上がっている。政令指定都市の中でも突出して生活保護率の高い大阪市の場合、概算で263億円の負担増になると試算している。

 仮に税源移譲がされたとしても、人口に対する生活保護人員の割合は自治体間の格差が大きく(大阪市は富山県の約17倍)、負担増に耐えられない自治体が出ることは避けられない。

 指定都市市長会は「強行されれば、生活保護事務を返上せざるを得ない」とする緊急アピールを発表。また11日に行なわれた10閣僚と地方6団体代表との協議の場でも、全国知事会会長の麻生福岡県知事が「国からの法定受託事務を返上する深刻な事態になりかねない」と国庫負担引き下げに反対を表明した。

相次ぐ支給水準の引き下げ

 生活保護制度は、憲法第25条に明記された「健康で文化的な最低限度の生活」を国民に保障するためのものであり、本来なら百パーセント国の責任で行なうべきものだ。長引く不況の下、小泉内閣による雇用不安定化など一連の「構造改革」によって失業者は増大し、生活保護世帯も急増している。1995年度に60万世帯だった生活保護世帯は、2004年度には100万世帯にのぼった。9年間で67%の増加だ。とりわけ高齢者世帯の増加率が高いことは、年金をはじめ社会保障の貧困を示している。

 ところが小泉内閣は、骨太方針に基づいて2004年度から老齢加算を削減し、2005年度からは母子加算削減、多人数世帯への扶助基準の減額、年齢区分の見直しによる扶助基準の減額を実施するなど、生活保護の支給水準を引き下げている。その結果、平均的4人世帯モデルで月額約8千円の減額、子ども3人の母子世帯は1万1千円強の減額となっている。

 国庫負担の引き下げが強行された場合、生活保護費を捻出できない自治体では住宅扶助削減など支給水準の引き下げをはじめ、就労強要や一方的な廃止決定、新規認定数の制限などで生活保護件数そのものの削減に着手せざるを得なくなる。厚生労働省の狙いはそこにある。

 生活保護制度の根幹を揺るがし、国民の生存権を脅かす国庫負担率の引き下げを許してはならない。

グラフ:被保護人員の推移と世帯類型別保護世帯数の変化(1か月平均)。実人員は1994年の80数万人を底に、増加に転じ2004年は140万人を突破。140万人突破は1980年以降数年間微増したあと減少に転じた1989年以来のこと。世帯構成では障害者世帯・傷病者世帯、老人世帯、母子世帯、その他世帯のうち、障害者・傷病者世帯と老人世帯が多くを占めるが、近年、老人世帯の増加が目立つ。
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