2005年12月16日発行916号

【あらわになるイラク占領下の戦争犯罪 突出する小泉の派兵延長 国民世論は自衛隊のイラク撤退】

 小泉首相は、12月8日にもイラク駐留自衛隊の派遣期限の1年間延長を閣議決定する。小泉は、これを「国際社会の一員として、イラク復興支援の国際貢献として主体的に決定する」という空疎な言葉で押し切ろうとしている。しかし、いま世界や米国の世論はイラク民衆とともに占領撤退を求めている。派遣延長の閣議決定は、この世界の流れと日本の国民世論に逆らうものだ。

広がる占領への疑問

 イラク戦争と占領への疑問は、占領下で米軍が行った戦争犯罪が次々と暴露されることで、ますます広がっている。

民衆抑圧する米軍(イラク自由会議提供)
写真:銃を構えて民衆を威嚇している米兵

化学兵器使った米軍

 昨年11月、イラク中部ファルージャでの「武装勢力掃討作戦」の際に、国際法違反の非人道的化学兵器である白リン弾を米軍が使用し、ファルージャ市民を無差別虐殺したことが、イタリアのメディアの報道で発覚した。

 迫撃砲から発射された白リン弾は民家上空で爆発し、その弾頭から高温で有毒の白リンを煙霧状に広範囲に撒き散らす。高温の白リンが皮膚に触れると骨が露出するまで焼き尽くされる。子ども・女性・年寄りなどの顔も体も溶けた遺体が家々の中から発見された。同市への包囲攻撃で4千人から6千人の市民が殺されたといわれていたが、化学兵器を使った無差別大量殺戮だったことが暴露された。

 「武装勢力の掃討」としてイラク全土で行われている米軍の軍事作戦とは、占領に抵抗する市民を標的とした無差別攻撃なのである。

かいらい政府も暴力

 大量破壊兵器疑惑という嘘がばれ、ブッシュは「イラクに民主主義と自由をもたらすため」と占領の口実をすり替えた。しかし、米軍やジャファリかいらい政府の行為は、民主主義や自由とは無縁の暴力・抑圧である。

 移行政府の内務省の拘束施設(バグダッド)でスンニ派の約170人が拷問などの虐待を受けていたことが明らかになった(11/15)。

また、移行政府の軍・警察にはシーア派政党やクルド系政党の組織する武装集団メンバーが大量に採用され、そうしたグループがスンニ派勢力に対する襲撃、誘拐、殺害を行っている。

 米軍が契約する民間軍事企業のガードマンはイラク市民を射殺しても法的追及は受けない。イラク市民の人権は全く守られていない。

 虐待行為で有名になったアブグレイブ刑務所など米軍施設内収容所に、今も多くの拘束者がいる。国連イラク支援派遣団(UNAMI)の人権問題責任者は、米軍が法的手続きなしに数千人のイラク人を拘束し、移行政府もイラク全土の秘密収容所で容疑なしの拘束を行っていると語っている(12/4ロイター通信)。

撤退を迫られるブッシュ

 占領の不当性が明らかになったことで、イラクへ軍隊を派兵してきた政府に対する国民からの批判が増大し、各国政府は撤退を打ち出さざるをえなくなっている。この流れは、親米路線を掲げ占領を継続してきた「同盟国政府」にまで及んでいる。

 すでに英国とオーストラリアは来年から部隊を段階的に撤退させる意向を表明している。英デイリーテレグラフ紙の世論調査では、ブレア首相の支持率は30%に落ち込んでいる。

 米英に次ぐ規模の3200名を派遣してきた韓国は、派兵の1年延長を決定したが、同時に1千名の部隊の削減を打ち出した(11/21)。ブッシュの求めに応じて増派した治安部隊から削減するといわれている。

 親米のイタリアのベルルスコーニ首相も、06年末まで3千人のイタリア軍部隊を完全撤退させる方針を表明した(11/22)。来年4月総選挙での国民の批判を恐れているのである。

初めて撤退に言及

 11月30日、ブッシュはイラク戦争の現状について演説し、「任務が完了すれば撤退できる。保証はできないが米軍の態勢は来年中に変化することが見込まれる」と述べた。「米軍撤退を語ることはテロリストに間違ったメッセージを送ることになる」として、撤退戦略を示すことをかたくなに拒否してきたブッシュが、今回初めて部分撤退に触れた。

 米軍の戦死者は2千人を超え、州議会や主要大都市の議会がイラクに派遣された地元州兵の帰還要求決議をブッシュに突きつけている。上院でも米軍削減計画をもとめる決議が採択されるなかで、撤退の「展望」を示さなければ政権がもたないほどにブッシュは追い詰められているのである。

占領継続固執する小泉

 ブッシュですら部分撤退に触れざるを得ない中で、小泉は自衛隊の派遣期間の延長を約束するなど突出した対応を行ってきた。日本のグローバル資本の要求に応え、彼らの権益を海外で守るための軍隊に変貌再編させる立場にたっているからだ。

写真:

 今、予定されている派兵延長は、サマワに派遣されている陸自部隊600名についても撤退基準は設けず、期間を1年延長するというもの。クウェートに派遣されている空自C130輸送機部隊(3機)要員200名は撤退させず、米中央軍前線司令部のあるカタールの基地やイラクの米軍基地を結ぶ輸送部隊の一翼を担うなど、むしろ任務を拡大することがすでに計画されている。

 在日米軍再編の中間報告で打ち出された、米軍と一体となった軍事行動の既成事実をこのイラクで作るためだ。

 すでに小泉は、10月にテロ対策措置法「改正」で海上自衛隊のインド洋から湾岸地域での活動継続を強行した。

 自衛隊派兵を本来任務にする自衛隊法の改悪を次期通常国会にも提出し、海外での武力行使にフリーハンドを与える新憲法制定を狙う小泉にとって、恒常的派兵は譲れぬ一線なのだ。

 11月、イラク多国籍軍の駐留期限延長の国連安保理決議には米英などと共同提案国となり、イラクかいらい政権のジャファリ首相まで日本に呼ぶなど、日本政府は占領支配の破綻をとりつくろう中心的存在になっている。

 しかし、世界の反戦世論同様に、日本国民の圧倒的多数も自衛隊の派遣延長に反対している。11月末の朝日新聞の世論調査では、延長反対は過去最高の69%にも上っている。

 駐留延長に反対し、全占領軍撤退を求めることが、イラク社会の民主的再建をめざすイラク民衆に応える道だ。

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