2005年12月16日発行916号

【耐震偽造 震度5で壊れるマンション 手抜きと不正で荒稼ぎする建設業界 拍車かけた検査民営化】

耐震強度の偽造が次々と明らかになっている。偽造が指摘された都心のマンション(東京)
写真:偽造が指摘された9階建てのマンションが建っている

 「震度5でマンションが崩壊する」。設計事務所による構造計算書の耐震強度偽造問題は、住宅の安全性を根底から破壊した。被害は全国に拡大し、マンションの使用禁止、ホテルの営業停止にまで至っている。これは決して異常な建築士と建設会社による特殊な事例ではない。建築分野での利潤優先の規制緩和・民営化路線が生んだ象徴的事件なのだ。

 建物を建てるときは、工事着手前に建築基準法などの法律に適合しているかどうか、構造・設備などの審査を受ける建築確認(図面と計算書の審査)が必要である。以前は自治体だけの仕事だったが、「規制緩和推進3か年計画」の一環として1998年に建築基準法が改悪され、民間企業でもできるようになった。「官から民へ」の号令の下、建築確認の民間開放である。

 現在は、全国に123の指定確認検査機関(民間検査機関)がある。民間検査機関の主力は、建設会社や住宅メーカーなどが株主として名を連ねる民間企業である。建設会社や不動産屋、設計事務所が営利目的で網の目のように繋がっている建設業界。文字通り「業界丸がかえの検査機関」である。本来、第三者による公正な審査が問われる検査機関までもがその流れに組み込まれた。東京都内では年間7万件(04年度)の建築確認件数のうち、半数以上が民間検査機関で処理されており、うなぎ登りで増加している。

政府・国交省に責任

 姉歯一級建築士が申請していた民間検査機関イーホームズは常日頃から「設計事務所とのパートナーシップ」を標榜し急成長を遂げた会社である。確認手数料を稼ぐには、多くの件数を早く処理することだ。一方で、姉歯はこのような甘い検査機関に目をつけ、常軌を逸した設計を続けたのだ。

 建築基準法第1条「目的」は「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低限の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資する」とある。建築確認と工事完了段階の竣工検査は、法律によって極めて公共性の高い検査を求められている。

 しかし、建設業界の多くはこの法律を最低基準ではなく「最高基準」としてコスト削減と利潤優先の工事を行っており、建物の安全性など二の次にしている。さらに手抜きと不正で荒稼ぎする建設会社もあとをたたない。何度も報道された欠陥住宅や悪質リフォームが端的な例である。

 住民の生命と財産、環境を審査する検査を民間に開放した政府・国土交通省の責任は重大だ。民間検査機関を廃止しない限り、この手の不正に歯止めはかからない。

形だけの「監督」

 民間検査機関ができた理由の一つに、自治体で行う建築確認が「時間がかかりすぎる」といった批判があった。全国で年間120万件の建築確認を1600人の建築主事で処理していたのが実態で、1人あたり750件に上る(都内では1人千件を超える)。しかも、設備・構造に限らず消防やゴミなどインフラ面まで調整するから公共性の高い検査となる。必要な人員の確保と審査能力のアップこそ求められていたのである。

 しかし、国土交通省は逆の動きを加速させた。95年の阪神・淡路大震災で倒壊した建物には、明確に手抜き工事と見られる被害が多くあった。“人災”だったのだ。建設業界に対する一層強力かつ公正な行政指導が求められていた。にもかかわらず当時の建設省はこの実態を意図的に隠蔽し、民営化を強行した。改悪された建築基準法は「行政が(検査機関を)監督する」としているが、検査機関から行政に提出されるのは、建物の概要を記した書類のみで形ばかり。指導するに足る書類自体出されていないのが実状である。

 さらに重大な問題は工事後の検査がずさんなことだ。木造3階建ての骨組み検査(中間検査)は最低1時間程度かかるが、民間検査機関は半日で10件も検査しているという。工事の手抜きを許さぬ的確な検査には全くなっていない。

危険増幅する小泉改革

 検査機関が適法を証明する「建築確認済証」と、工事が適正に行われたことを証明する「検査済証」。住民はこの2つの証明書を信頼して住宅を購入してきた。しかし、今後何を信用して買ったらよいのか。利潤優先の国鉄民営化は、JR福知山線事故で107人の命を奪った。小泉改革の規制緩和・私物化路線にストップをかけない限り、国民の生命と生活の危機は止まらない。

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