2005年12月16日発行916号

ロゴ【全国初の「国民保護」実働訓練 武装兵への「慣れ」狙う】

 11月27日、全国で初めての「国民保護実動訓練」が福井県美浜町・敦賀市で行われた。敦賀から若狭は原発15基を抱える地域である。

 今回の「訓練」は、関西電力美浜原発2号炉が国籍不明のテロリストによる攻撃を受け、同施設の一部が損傷を受けたことにより、放射性物質が放出される恐れが生じるという「緊急対処事態」を前提とした実動訓練である。26日、敦賀市内でこの訓練に反対する集会が開かれ、27日当日には実動訓練監視行動が行われたので参加した。

 福井県の実動訓練のシナリオについては「ありえない事態」「非現実的」と指摘されていたが、実におかしな中身である。そもそも原発を攻撃しようというテロリストが「偽造迫撃砲」(?)などで中途半端な攻撃をして「逃亡」とはいかにも馬鹿げた想定である上に、以降「偶発的な故障が合い重なり(原発の)冷却機能が喪失」となっている。

 なぜこんな誰がみても首をかしげるような変てこなシナリオがつくられたのか。

 当日の監視行動は60名近い参加者が11班に分かれ、美浜町の竹波・丹生(にう)地区からの住民避難訓練その他の動きのチェックを行った。私の参加した班は、丹生地区の人々が12時半にバスで半島北部の白木漁港(敦賀市)に行き、そこから海上保安庁の巡視艇で三方五湖北部の早瀬漁港に入ってくる、そこでのウォッチングとなった。

武装し、軍用車輌で威嚇する自衛隊
写真:車輌の上から迷彩服の隊員が周囲を威嚇している

小銃持ち威嚇する自衛隊

 車で早瀬に向かう途中、丹生地区住民の白木までの避難誘導訓練に向かう陸上自衛隊の軽装甲機動車とすれ違った。5・56ミリ機関銃を車載できるこの車を陸自は多数イラクに持ち込んだ。今回別に戦闘に向かう訳でもないのに、天井ハッチを開けて迷彩服の自衛隊員が周囲を警戒・威嚇している様は何とも異様だ。小銃も携行していたことを後から聞いた。

 早瀬はこじんまりした静かな漁港。猫がのんびりと日なたに並び、かもめの鳴き声だけが聞こえてくる。が、時間がたつにつれ上空を旋回するヘリで騒々しくなり、時雨に見舞われ出した13時40分、住民を乗せた海上保安庁の巡視艇が早い速度で4隻次々と入ってきた。まず救命胴衣を着けた女性たちが下ろされた。「これすごく肩がこる。しんどかった」。メディアが殺到し、雨で足元がすべる。どの人も疲れて苛立っている感じだ。続いて男性。年齢が比較的若い。事前に丹生区長は「中学生から40歳まで40人」と地元に要請したとか。一家に1人、比較的元気な人だけが対象というわけだ。もし実際に避難となれば、お年寄りや障害者などはどうなるのか。

 住民の下りた巡視艇をもう一度見上げて、私はギョッとした。どの巡視艇も船首に黒い防弾チョッキにゴーグルをつけ軽機関銃を構えた保安官が周囲を威嚇するように立ちはだかっている。すぐ横の陸では漁師たちが水揚げした魚の箱を積んでいる。いつの間にか「有事」が住民の日常の中に入り込んできている…そう感じずにはおれなかった。

統制のために演出

 今回の訓練は「有事色を薄めた」という報道がなされた。原発道路も封鎖されず、避難対象地域でも釣りやサーファーを多く見かけた。民宿関係者からは事前に「このカニシーズンに」という苦情が県に寄せられていた。国も地元からの反発には一定「配慮」せざるを得なかった面はある。

 しかし国民保護法訓練にかける国の狙いは、あくまで「有事」をめぐる自治体や公共機関への統制と連携の強化であり、戦争や軍隊に住民を慣れさせ協力させていくことだ。それには銃を持った自衛隊や保安官が登場して「住民を守っている」ように見せる「場面」が不可欠。テロリストが自爆したり、原発が直撃破壊されるような想定ではだめなのだ。

 そこに今回の変てこなシナリオの背景がある。

     藤田 なぎ

(「平和と生活をむすぶ会」)

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