ロゴ:童話作家のこぼればなしロゴ 2005年12月23日発行917号

『鉄原に立つ!(1)』

 鉄原? タイトルを読んだだけで、「ああ、キムさんは、ついにあそこにまでいったのか」と感慨深く思う人は、よほど朝鮮半島問題に詳しい人か、渡り鳥に詳しい人だけ。巷にはそうはいないはずだ。

 しかし、ひと言「DMZ(非武装地帯)」といえば、誰もが知っている場所。つまり鉄原(チョルウォン)とは、北緯38度線に位置する韓国と北朝鮮を分ける南北それぞれ幅2キロの非武装地帯に接するところ。とても有名な板門店は、半島のかなり西よりに位置しているが、鉄原はDMZのど真ん中に位置する。韓国で一番北にある鉄道の駅、「月井里駅」があるところでもある。もちろん、汽車は走っておらず、鉄道は分断されたままだ。本国の人でも簡単にいけないところに私は立ってしまった。その話をする前に、なぜ、こんなところにいくことになったのから話さなくてはいけない。

 コウノトリの放鳥も無事終了してほっとしていた10月の中旬。一本の電話がかかってきた。

 「日本に渡ってくる野生のコウノトリは朝鮮半島を経由してくるといわれているでしょ。放鳥したコウノトリの野生化へのヒントもほしいので、韓国のコウノトリを見たいと思いましてね。一緒にいきましょうよ」

 電話の主は、豊岡市コウノトリ共生課の佐竹節夫課長だった。実は、佐竹課長は以前から韓国へ行きたいといっていた。私は絵本や児童文学の執筆でたいへんお世話になっている。案内役兼通訳でいくのには何の問題もないが、コウちゃんの剥製の「里帰り」を記念して11月27日に福井で講演することになっていた。そこだけは避けて欲しいと要望していたのである。ところが佐竹課長がいう日程は、講演の前日までの23日〜26日。もしも飛行機が飛ばないアクシデントなどがあればたいへんな迷惑をかけることになる。私は至極迷ったが、課長の次のひと言で心が動いた。

 「鉄原。あそこにも行きたい。ツルもくるけれど、コウノトリもくるって聞きましたよ」

 鉄原! そうか、鉄原にいけるなら何としてもいかなくては。私はひとり先に日本に帰ることができるならと了承した。

 鉄原は、1993年に人工衛星を使ったマナヅルの渡りの経路の解明で一躍有名になった。毎年冬になると、マナヅルの世界の個体数の4割、ナベヅルに至っては9割が鹿児島県の出水(いずみ)に渡ってくる。わずかに50ヘクタールほどの水田に1万羽ものツルがやってくるのだが、どこからどのようにやってくるのか謎だった。調査でわかったのは、ロシアや中国を出発したツルたちが、DMZで羽を休めたあと、日本に渡ってくることがわかったのだ。

 鉄原は鳥を愛する人なら誰もがいきたい「ツルの楽園」だが、思わぬ「障害」が横たわった。

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