2005年12月23日発行917号 books

どくしょ室 / 生活を呑み込む消費文化

『子どもを狙え! / キッズ・マーケットの危険な罠』 ジュリエット・B・ショア著 / 中谷和男訳 / アスペクト 本体1900円+税

 表紙のイラストが印象的だ。赤ん坊を入れたショッピング袋。袋には「Born To Buy」(買うために生まれた−本書の原題)と書かれている。すべての人々を消費人間にするグローバル資本主義の本質を端的にあらわしている。

 著者は『働きすぎのアメリカ人』や『消費するアメリカ人』などの著作で、米国を蝕む消費文化に警鐘を鳴らしてきた。そうした社会学者としての活動や二児の母親としての体験から彼女は断言する。企業にとって「子どもは消費市場を家庭に持ち込む重要なパイプだったのである」と。

 ある広告代理店の社員は「だれをだませるかを考えよう…。子どもがせがめば母親は言いなりだから」とあけすけに語っている。仕事に追われる親たちは、贖罪意識から子どもが言うがままに商品を買い与えるはずだ−−企業はそこまで計算に入れている。

 しかも「子どもを常習者にする」ための企業戦略は巧妙さを増している。テレビCMによる大量宣伝はもはや古典的手法だ。企業は口コミによる商品宣伝や市場調査のために、報酬を払って子どもたちを組織するといったことも普通に行っている。

 今やコマーシャル・ウイルスの侵入を防ぐ聖域は米国社会から消失した。その最たる例が学校である。公教育予算の削減で慢性的な財政難にあえぐ学校は、資金援助と引き換えに学校を広告宣伝・販売の場として企業に開放していった。

 企業に丸ごと売り払われた学校はどうなったか。ネブラスカ州のある校区は、体育館の床板1枚ごとに企業ロゴを入れることにした。体育館や図書館のネーミング権を1年5000ドルの契約で企業に売っている学校もある。

 広告は教室の中にも入り込んでいる。ある企業が学校に寄付したノートパソコンには仕掛けがある。子どもがパソコンを使うたびに、企業の商品CMが画面いっぱいにあらわれるのだ。

 何より問題なのは、スポンサー付教材の大量流入という形で教育内容そのものに企業が介入していることだ、と著者は言う。これら企業提供のカリキュラムは、企業に都合の悪い事実は歪曲する。たとえば、エネルギー業界は地球温暖化現象を否定する教材を無料で学校にばら撒いた。

 こうした米国の先例は、公教育の解体・学校の営利化(民営化)が何をもたらすのかを示している。グローバル資本は教育をのっとり、社会に疑問を抱かず消費するだけの人間を大量生産しようとしているのだ。

 子どもの世界から商業主義を排除するのは容易なことではない。著者が指摘するように、企業が提供するよりも魅力的な価値観を親が自身の生き方で示す必要がある。ともあれ、まずは消費文化の害悪を自覚することだ。本書はその一助となるだろう。   (O)

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