2005年12月30日発行918号

【2006年の展望―MDS委員長に聞く 生きる場はグローバル資本との闘いに】

佐藤和義MDS委員長
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 イラク戦争・占領のでたらめさがますます明らかになり、占領軍撤退が世界的流れとなっているにもかかわらず、総選挙で圧勝した小泉は自衛隊派兵延長を決定、新憲法制定も狙っている。背景にあるグローバル資本の支配とどう闘うか、その方向と展望を、民主主義的社会主義運動(MDS)佐藤和義委員長に聞いた。(まとめは編集部)


腐敗の極致の資本主義

Q人命を無視する事件が続いていますが。

 現在のグローバル資本主義の腐朽性や腐敗性は、極致に達している。それを象徴する事件が発生している。ひとつはマンションの耐震強度偽造事件、詐欺事件。もうひとつは一連の子どもの殺人事件だ。

 マンションの件は、簡単に言えば、住民の生活の根本である家についても利潤原理を徹底するなら安全性は無視されるということ。JRの尼崎事故と同じ利潤原理だ。グローバル資本が世界中を駆け巡って短期間に投機的な利益をあげなければならないという論理が、交通や住宅政策の中にも貫かれている。建築の検査機関が民営化された結果、今回の事件をもたらしたのだ。

 最近の民営化は、美術館であれ、税の徴収であれ、交通違反の罰金の徴収であれ、なんだってやりかねないところまできている。保育園もそうだ。

 これらを単に自治体の合理化や財政合理化という視点から見るだけではだめだ。グローバル資本は極端な利益をあげている。そして膨れ上がった資本がさらに同じだけの利益をあげなければならない。とすれば、今まで進出できなかった分野も取り込んでいかなければ足りなくなる。

戦争路線と対決する無防備地域宣言運動(京都市)
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 自治体や国による公共部門は、必要業務である以上、市場として売れ先がはっきりしている商品やサービスを供給している。それをグローバル資本が取ることによって、コストを下げれば、圧倒的に儲かる部門になる。公務員ではなくパートタイマーにし、仕事の質を問わなければ、保育園なども大いに儲かる部門となる。その徹底の中でグローバル資本は儲けてきた。いま、腐敗の極致が人間の命を無視してあとは野となれ山となれ式の極端な利益追及や犯罪行為にまで行き着いているのだ。

 もうひとつの最近の痛ましい事件について。まだ詳細が明らかになっておらず正確には言えないが、やはり小学生の少女という非常に弱いものを相手に暴力をふるうというのは、加害者の側も必ずより強いものに支配され抑圧されている精神構造の下で、暴力をふるっているのではないか。

 すさまじい抑圧・差別原理が貫徹するこのグローバル資本主義の社会の中で、こういう暴力行為、暴行事件が生起していると見るべきだ。まさに金を儲けることがすべてであり、そのためには何をしてもかまわない、そのような原理が支配する社会で事件が起きるのはある意味では必然だろう。

デマを与える小泉の策略

Q総選挙での小泉圧勝をどうみたらいいのでしょう。

 総選挙は小泉の圧勝だった。もちろん小選挙区制の不公平な仕組みがあったからで、小泉が絶対多数を取ったわけではないが、しかし議席の圧倒的多数を取ったことの意味は非常に大きい。

 なぜ支持されたのか。選挙の時に彼は「郵政民営化に賛成か反対か、改革の前進か後退か」と言った。小泉は、「27万人の郵政労働者の既得権を守って一体どんな改革ができるのですか」とテレビで強調した。郵政公社員は税金で給料が払われているわけでもないのに、人数を減らせばあたかも何か良くなるかのようなデマゴギーをふりまき、若者たちに訴えかけていった。

 東京新聞は、20代前半では、北海道を除いてすべての比例区で自民党がトップを取ったという異常な状況を伝えている。これまでの投票行動を見ていくと、20代は自民党に投票する割合が非常に低い層だった。それが逆転してしまった。若者のひとりは「亀井さんとか自民党の中の悪いものを敵に回して、今回そういうものをズバッと切ったんでしょ。何かクールで格好いいんじゃない」と語っている。

占領軍撤退を求めて若者たちがデモ(12月11日・京都市)
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 テレビ好きほど自民党に投票したという。広告会社を使ってテレビ戦略を練ったわけで、端的に「改革」を打ち出し、自民党の古い利益政治集団を切リ捨てることをあたかも「改革」であるように言い、民衆・市民・労働者の生活を破壊する方向を「改革」であるかに見せた。

 フリーター、半失業者として生きている年収100万円そこそこの若い労働者にとって、現状は全く否定すべきものでしかない。とはいえグローバル資本主義の悪政の下で改革・変革は不可能だと思い込まされている。その中で、「改革」を打ち出してくる小泉が強く、格好よく見えて、それに投票したり、かかわることによって、自分たちがあたかも何か解放されるかもしれないというように感じた。これが投票行動の原因であったと思う。

 また靖国問題でも、若い人たちの中に支持するものが出てきていることは重大な問題だ。ここでも「韓国や中国からとやかく言われたくない」という意識を煽られるとそれに従って批判していく。そこに何か自分が社会にかかわっている実感を抱く。最末端の労働者として社会から排除され、負け組といわれる自分たちであっても、強いものにくっつき、誰かを叩くことで上に行ける。最末端じゃない、負け組じゃないと思いたくなる。そんな幻想がなければ生きていけないぐらい辛い生活をしているということなのだが。

 こういう幻想を与えるのが、小泉の策略・戦略であった。その思想は徹底したエゴイズムの思想であって、誰かを叩き落すことによって初めて自分の幸せを感じることができるというばかげたものだ。だがそれは真の敵を見失わせる。

金に踊らされる「勝ち組」

Q「格差社会」という言葉がよくでますが。

 勝ち組、負け組といわれている。明らかに若者たちの多くは年収が少なく、正規雇用ではなく、結婚もできず、今後の生活の展望が持てない。

 一方、勝ち組と称する、ホリエモンや村上や楽天の三木谷とかはどうか。東大や一橋を出て、非常に多くの金を稼いでいる。会社を持ち、六本木周辺に住んで華々しくしている。

 しかし、彼らが自由なのか。そうではない。彼らはまさにギャンブルをして、たまたま勝っている。ではその金をどう使うのかといえば、また金儲けに使わなければならない。グローバル資本の手先、走狗として常に走り続けなければならない。1億円で1千万円を稼ぐことはそれほど難しいことではないかもしれないが、100億円や1千億円となった時には困難さが段々と増してくる。株を買い占め、株価を引き上げ、株を売り抜けて儲けるということをやってきたが、その規模が段々と大きくなり、常にそんなことができるわけがない。

 勝ち組の彼らも、金に焦らされ、金に踊らされるという意味で全く自由ではない。

 彼らがやっているのは、全世界の労働者や民衆が働いて作り出してきた価値・富の分配を巡り、株式市場で投機をし合っているにすぎない。

 そういう社会の進歩に一切役立たない、常に金を儲け続けるだけという貧困化した精神構造、支配階級の崩壊ぶり、デタラメぶりが、いまのグローバル資本を象徴しているのである。

戦争と抑圧招く新憲法

Q小泉のめざす改革とは。

 小泉が次にしようとしていることは、グローバル資本主義路線の総仕上げとして戦争と民営化を徹底する新憲法制定策動だ。それは単なる9条改憲ではない。グローバル資本主義路線を徹底するために、戦争を自由に行うことができ、国家の義務に国民が従う、そういう憲法を制定しようとしている。まさにクーデター的な憲法制定策動である。

 なぜ今、新憲法か。グローバル資本主義路線が、社会の富を支配階級が徹底してかき集めて、一般の労働者・民衆・市民には何も出さない、やらずぶったくりの路線であるからだ。これから先も増税を押し付け、社会福祉を解体し、それを資本の儲けの対象に変えていく。そのような路線を進めていくグローバル資本が感じている恐怖を踏まえて、新憲法制定策動がある。

イラク・キルクークに開設された子どものシェルター
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 それは、17-18世紀のブルジョア革命で作られた、市民の権利を保障する憲法の原理を根本的に否定し、グローバル資本にふさわしい抑圧憲法に替えようとするものだ。

 また、日米同盟の強化という問題がある。10月の2プラス2(日米安全保障協議委員会)では、対中国軍事同盟という本質を明らかにして沖縄新基地建設を明確化した。しかも沖縄・全国に展開する米軍基地は、すべて日米共同作戦態勢となる。自衛隊が主体的な侵略軍として全世界に出て行くときに米軍と共同作戦態勢をとるためだ。「米国の押し付け」というのは大間違いだ。

 この脈絡で日本のイラク駐留延長を見なければならない。全世界では占領軍撤退の方向が大勢であり、米国でもブッシュが反戦世論に押されている中でも、小泉は自衛隊駐留の1年間延長を決定した。もちろん撤退を匂わせてはいるが、航空自衛隊部隊はさらに役割を強化しようとしているし、陸上自衛隊も新たに民間企業やNGOと一体となってイラク占領支配に加担することを狙っている。

9条守れだけでは敗北

Q小泉のでたらめを許している運動の弱さについて。 

 小泉の圧勝の前に、日本の平和運動を支えてきた護憲勢力といわれてきた人たちの間には、動揺があると思われる。いま憲法9条改正反対が強調されているが、考えなければならないのは、明らかに新憲法制定策動であって単なる9条改憲ではないことだ。グローバル資本主義路線にトータルに反対する路線で対抗しなければ勝てない。

 若者たちは現在の社会、現状の日本に全く絶望している。そういう中で現状の憲法を守れというだけでは彼らを組織できない。変革の展望を示さないかぎり、「改革」と称するグローバル資本主義路線に勝利することはできない。

 共産党は総選挙で「たしかな野党」をキャッチフレーズにしたけれど、それは展望ではない。この日本社会をどう変革していくのか、世界をどう変えていくのかという展望の下に若者に働きかけないかぎり、彼らを変革し得ないだろう。護憲運動の中に青年層の姿が少ないのはその反映だと思う。そして国民投票が進められるまで待機するというのでは、新憲法制定勢力の包囲網に敗北する。

 だから、現在各地で展開されている無防備地域宣言運動のように、攻勢的先制的に自衛隊の行動や存在そのものを排除していく地域を作り、自衛隊を無力化していかねばならない。これが、新憲法制定策動の根幹である軍事力問題についての回答ではないか。この運動は権力の側も非常に警戒しているように思う。

 護憲運動の一部から「専守防衛を認める人や自衛隊の現状を肯定する人たちにも運動を広げなければならないときに、無防備地域宣言運動は自衛隊を排除している。これでは運動を狭める」という批判がある。

東京でのデモに参加したサミール・アディルIFC議長(9月24日)
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 これは全く間違っている。自衛隊に対決せず、自衛隊の侵略に反対しない9条改憲反対運動とは何か。それは反対するエネルギーを弱めるものではないのか。侵略されているイラクの人々に対してどういう連帯の方向を示せるのか。国内に閉じこもって、文言だけが変わらなければいいのか。それでは闘えない。

世界を変革する連帯を

Q若者も巻き込む闘いの展望は。

 小泉自民党を支持した若者たちは、「改革」と称する強く見えるものにすり寄れば、自分たちの展望が切り開かれるかもしれないという幻想を持っている。われわれは彼らに対して、国際的な民衆の連帯の強さとすばらしさを示し、伝えなければならない。

 最初に郵政労働者、次は地方公務員、次は誰々という形で、日本社会の中で次から次に敵を作り出し、それを叩く。こういう社会で、安全に、平和に、民主的に暮らせる展望など出てくるわけがない。

 とすれば、自分たちの生きる意味、自分たちが社会の中で存在する意義を獲得する道は何か。まさにグローバル資本主義の戦争と民営化の路線に根本から対決する道を選択し生きていくことだ。その中で、自分たちが民主的に生活できる空間、地域を建設していくことだ。

 IFC(イラク自由会議)との連帯運動は、グローバル資本の戦争路線に反対する中心的課題である。ブッシュ、ブレア、小泉らの軍事路線をここで粉砕すれば、グローバル資本主義の一番の力の源泉である軍事力行使を難しくすることができる。

 それだけではない。IFCはイラクの中でイスラム政治勢力と闘い、民主的なイラクを作ろうとし、現実に作っている。ここに展望がある。彼らの闘いは、地域での民主主義的空間を作り出す意義を持つ。われわれは、世界的な変革過程の一翼をお互いが担っているものとして連帯しているのだ。

 イラクの子どもたちの写真展が企画されているが、それは日本のNGOによくある、誰かにお金が行き、負傷したひとりの子どもを救うためだけにあるものではない。もちろんそういう運動が意味がないとはいわないが、連帯すべきは、イラク社会の民主的変革の展望とその運動であり、その一翼としての子ども支援センターの取り組みだ。

 なぜなら、こういう不幸な子どもたちを生み出す源泉となるものと闘って根本を正さないかぎり、結局はグローバル資本主義がしでかした戦争の惨禍の尻ぬぐいでしかなくなる。また、ぬぐいきれるものではない。その判断を留保してあいまいにしてしまうと、いまNGOとODA(政府開発援助)、自衛隊が一体となったイラク支配構想、イラク利権獲得構想に巻き込まれてしまう。

 民主的なイラクを作っていく勢力と一貫して連帯することが必要なのだ。根本的な批判を留保したまま医薬品を送ればいいでは、自己満足になってしまう。

 自分たちがイラクに侵略軍を出している国家の一員であることを踏まえ、撤退という立場を鮮明にし、イラクの変革をめざす展望のある運動にかかわっていく。そうした深い連帯の中で、自分自身のよって立つ位置も定まるし、確信をもつことができる。

 小泉路線は敵を作っていくだけだ。靖国を賛美し、中国は敵だ、韓国は敵だ、そして民営化で郵政労働者は敵だ、と。どんどん敵を作り出し味方が減っていく。

 われわれの運動はそうではない。ごく少数のグローバル資本と対決していく運動の持つ豊かさの中でこそ、自ら解放され、変革の展望を持って生きていくことができるのだ。

 ありがとうございました。

      (12月12日)

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