2005年12月30日発行918号

【広がる所得格差と貧困の増大 小泉改革の行き着く先を示す】

 いま日本では貧困層が増え、所得格差が広がっている。これは、グローバル資本の要求に合わせて国と社会をつくり変える「構造改革」の結果だ。大企業が史上最高の利益を手にする一方で、大量失業・非正規雇用の増大と社会保障の解体攻撃が新たな貧困を生み出している。非正規雇用の賃金水準の引き上げと生存権を保障する社会保障充実など、小泉改革に根本的な代案を突きつけることが求められている。

写真:

貧困が広がっている

世界有数の貧困率

 OECD(経済協力開発機構)が今年の2月に発表した加盟国の所得分配と貧困の現状に関する比較調査は、私たちを驚かせるものだった。

 日本の貧困率(国民の中位者の所得の半分よりも少ない所得しか得ていない者の割合をいう)は15・3%で、メキシコ(20・3%)、米国(17・0%)、トルコ(15・9%)、アイルランド(15・4%)に次ぐ第5位だという。

 10年前に日本の貧困率は8%だったから約2倍の伸びということになる。

増える被保護世帯

 生活保護の受給世帯数も増えている。92年度の58万6千世帯を底に増え続け、今年6月にはついに100万世帯を超えた。

 貯蓄のない2人以上世帯も、04年が22・1%、05年が22・8%と増え続けている。単身世帯では4割を超える世帯が貯蓄ゼロだという。

減少し続ける家計所得

 貧困は、決してごく一部の人々の問題ではない。 

 家計所得(平均)は96年の661万円をピークに下がり続けており、02年には589万円となった。しかも、最上位20%の平均所得と最下位20%の平均所得の比率は、96年には1423万円対148万円で9・9倍だったものが、02年には1322万円対127万円で10・4倍へと増えている。所得格差は確実に広がっている。

大資本のための国家改造

「日本型雇用」から転換

 こうした現象は、80年代後半から急速に海外進出しグローバル化した大資本と自民党政権が、結託して国と社会の改造を進めた結果だ。それが、橋本内閣の「6大改革」に始まる「構造改革」路線だ。

 その際、改造(破壊)すべき対象の一つとなったのが「日本型雇用」だ。

 「日本型雇用」の下で、企業はいったん雇用した労働者の首を簡単に切ることはできなかった。低賃金労働力を求めてアジア諸国に進出しグローバル化した資本は、こうした「日本型雇用」を負担に感じ始め、本国での税金や賃金・社会保障負担の軽減、もっと簡単に首切り・リストラできる仕組みを求めた。

 小渕内閣(99年〜00年)の下では、労働者派遣法・職業紹介法の規制緩和、所得税・法人税の最高税率の引き下げ、農業基本法の廃止など「構造改革」関連法が次々と成立した。

 小泉内閣(01年4月〜)は、従来の自民党支持基盤であった農村や業界の利益を代弁する政治家を「既得権にしがみつく守旧派」と攻撃し、「改革」をより急進的に進める内閣だ。小泉内閣は「労働市場の構造改革」を掲げ、有期雇用期間の延長(原則3年へ)、職業紹介事業の許可の簡素化、製造業への派遣労働の解禁、派遣期間の1年から3年への延長などの改悪で、企業のリストラを後押しした。

失業と非正規雇用の増大

 その結果、300万人の失業が常態化し、正規雇用は減り、非正規雇用が急増した。それが、貧困の広がりの最大の要因だ。

 労働力調査の今年7〜9月の平均詳細結果によると、雇用労働者(役員を除く)5021万人のうち、パート・アルバイト、派遣・契約社員など非正規雇用労働者は1650万人で、全体の32・9%を占め、数・率ともに過去最高となった。全雇用労働者の3人に1人は非正規雇用ということだ。98年以降の6年間で約400万人が正規から非正規に置き換えられた。

 特に15〜24歳の若年層では実に46%が非正規雇用だ。

 非正規雇用は、明らかに賃金が低い。2002年の調査によると、正規雇用の労働者の平均賃金が月額33万円なのに対し、派遣労働者が20万円、パート・アルバイトが9万円とその差は歴然としている。

 OECDの報告書によると、日本は2人働き世帯の貧困率が高いという他国には見られない特徴があるという。夫も妻もパート・アルバイトという世帯が増えているということだ。

拍車かける社会保障破壊

 こうした雇用形態の変化に伴う低賃金化に加え、「聖域なき改革」の名で進められている社会保障制度の改悪・個人負担増の攻撃が貧困化に拍車をかけている。

 小泉内閣になってからの個人負担増をあげるだけでも、年金掛け金(保険料)の引き上げ(毎年)と給付水準の引き下げ(最終的に現行の15%減)、老人医療の自己負担の引き上げ(定額制から定率制に)、健康保険の本人負担の3割への引き上げ、介護施設の居住費・食費の自己負担化、障害者福祉への「応益負担」(1割自己負担)の導入、所得税の定率減税廃止など、枚挙にいとまがないほどだ。

 その一方で、グローバル企業は空前の高収益をあげ、株や投機で儲けた「億万長者」も増えている。「1億総中流」といわれた時代はとっくに終わり、日本社会はひとにぎりの富裕層と貧困層に二極分解し始めている。

 小泉首相がよく言う「努力した者が報われる社会」の努力した者とは、額に汗して働く勤労国民のことではない。物をつくり出すわけでもないのに、マネーゲームによって一瞬で巨額の儲けを得る寄生虫のような連中(マスコミのいう「勝ち組」)のことだ。

「構造改革」は国民に敵対

 本来なら、リストラによる所得の減少や貧困をカバーするのが、社会保障制度の役割だ。先述したOECDの報告書によれば、フランス・ドイツ・デンマークなどは税・社会保障給付を含めない所得だけで見れば、日本よりも貧困率が高い。ところが、税・社会保障給付を含めた可処分所得では、貧困率は日本よりもはるかに低くなっている。これは、税制や社会保障を通じて所得の再分配がされているからだ。

 ところが小泉内閣が進めている「構造改革」は、社会保障制度そのものを破壊しようとしている。

 現在の貧困は、大量失業、非正規雇用の極端な低賃金と、政府の社会保障破壊によって生み出されている。被害者は若者や老人など社会的弱者にとどまらない。小泉改革は、あらゆる階層を敵にまわすものなのである。

 

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS