2005年12月30日発行918号
解剖自民新憲法案  2

【第9条 「国防」口実に世界に派兵】

 自民案は、前文の全面改訂で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」という侵略戦争への反省をなげすてました。その上で「国益」=グローバル資本の権益確保のための武力行使にフリーハンドを与えようと「9条」を抹殺しています。

「交戦権」を認める

 自民党が狙っているのは、「戦力を正式に持つ」ことと「実際に使う」ことです。だから、平和主義をうたった9条1項は残し、戦力不保持と交戦権の否認を定めた9条2項は全文削除したのです。1項まで削ると「戦争一般を認めるのか」との批判を受けかねないからです。

 政府はこれまで、「交戦権は否認されるが、自衛権は認められている」と強弁し、世界有数の軍事力を持つ自衛隊を存在させてきました。交戦権と自衛権の関係について政府は(1)交戦権は交戦国が国際法上有する種々の諸権利であり、相手国兵力の殺傷・破壊、相手国領土の占領と占領行政、中立国船舶の臨検、敵性船舶の拿捕などを指し、憲法はこれを否認している (2)自衛権の行使にあたっては、必要最低限の実力行使は当然に認められており交戦権とは別のものだ としています。

 自民党案は現憲法9条2項を削除することで、歴代政権が「自衛権行使を超える」としてきた交戦権を認め、日本が現にイラクで行ってきた他国の占領とその後の占領行政を憲法上も可能とすることを狙っています。

派兵求める資本

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第9条の2 我が国の平和と独立ならびに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮者とする自衛軍を保持する。

2 (略)

3 自衛軍は、第1項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

4 (略)(自民党案)

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 自衛軍保持の口実として「我が国の平和と独立並びに国および国民の安全」を持ち出しました。憲法9条に制約されているため、現行自衛隊法の規定では「直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし」となっています。

 しかし、この「専守防衛」のもとで、すでに自衛隊はイラクに派遣され占領軍に参加しています。「周辺事態法」では、在外公館への攻撃や在外邦人の保護も対象となると政府は国会答弁しています。グローバル資本の海外での活動を守るため、経済同友会は自衛隊が在外企業を警護することを求めています。

投げ捨てた「専守防衛」

 「専守防衛」のたてまえを最終的に否定し、「交戦権」を認めることは、「国土・国民の安全確保」を口実とした派兵〜武力行使をいつでもどこででも可能とするものです。交戦権を認め自衛軍の保持を明記することで「防衛のための必要最小限の戦力を超えることはできない」との制約を取り払い空中給油機や空母など遠征のための装備も可能とし、果てしない軍拡の道を突き進むことを目指しているのです。

 現行憲法を審議した1946年の国会で吉田茂首相(当時)は「近代の戦争は、多くは国家防衛権の名において行われた。正当防衛権を認めることは、戦争を誘発し有害」と述べています。国際法は不戦条約(1928年・パリ)以降戦争違法化の道をたどり、国連憲章では戦争も武力行使も原則違法とされました。「自衛のための武力行使すらきわめて限定的にしか認めない」というのが、人類の到達点です。にもかかわらず、ブッシュ政権は「国際社会の平和と安全」を口実に、アフガニスタンへの「対テロ戦争」を強行しました。世界を「戦争自由」の中世に引き戻すおろかな犯罪行為です。

「占領・介入・威嚇」の軍へ

 憲法9条の制約の下で、日本政府は海外派兵のたびごとに個別の時限立法で対処せざるを得ませんでした。それでは「国益」=グローバル資本の権益確保に乗り遅れてしまいます。

 自民案は、3項で「国際協調による平和維持」を自衛軍の任務としています。これにより、イラク戦争のような多国籍軍による「グローバル資本にとっての正義と秩序」を押し付ける戦争を自ら行うことを狙っています。また、派兵の条件となるのは「国際協調」のみですから、派兵先政府との二国間合意でも可能となります。「テロ対策」を口実に、現地国軍と連携し民衆を弾圧する行為に道を開くものです。同時に、「公の秩序維持」「国民の生命・自由を守るための活動」も任務とされています。これは、有事法制下で「テロ対策」などを口実に、武力によって国民を威嚇するものです。「軍隊は住民を守らない」ことは、沖縄戦で実証されています。

 自民案は、平和を願う世界の民衆に敵対するものです。

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