2007年09月14日発行1002号(2007年9月21日号)

【グローバル資本主義がもたらす貧困 まだまだ低すぎる最低賃金 国際水準の1200円を】

 2007年度の最低賃金改定が全都道府県の地方最低賃金審議会によって答申された。全国平均の最低賃金(時給)は14円上昇し687円となる。厚生労働省は10年ぶりの10円台引き上げ(それまでは数円)を強調するが、この平均最低賃金で1日8時間・月22日働いたとしても12万円程度。深刻化する貧困問題の解決になんら寄与するものではない。また、最も高い東京が739円、最低は秋田と沖縄の618円で、差は現在の109円から121円に広がる。「貧困のオルタナティブ!若者ネットワーク」が呼びかける最低賃金1200円要求は、ますますその意義を増している。


貧困の責任は政府・企業に

 1990年代以降、グローバル資本による新自由主義政策の推進の結果、底なしの貧困が拡大している。

 生活保護受給世帯数は、「適正化」という締め付けによって1992年度いったんは59万世帯まで減少。しかし、2004年度は99万世帯となり、05年度100万世帯を突破。06年には106万世帯まで増加している。北九州市餓死事件に象徴される政府・地方自治体の厳しい申請拒否の中でもこの数字である。

 OECD(経済協力開発機構)の定める相対的貧困率(中位所得の50%以下の所得者が全人口に占める割合)は、1960年代から90年代前半までは5〜10%で推移していたが、90年代半ばに11・9%、2000年には13・5%となり、米国に次いで第2位となった。

 このような貧困の拡大をもたらしたのは、1986年の労働者派遣法成立を契機にした非正規雇用労働者の飛躍的な拡大と、非正規労働の低賃金化、企業のリストラによる正規雇用の減少である。

 1994年から2005年にかけて、正規雇用労働者は431万人減少し、非正規雇用労働者は662万人増加した。特に若者たちの多くが非正規雇用となる中で、世帯主が29歳以下の貧困率は1995年20・7%から2001年には25・9%に拡大した。

 若者たちの貧困化は、彼らの多くが非正規雇用で低賃金であるからだけではない。企業の福利厚生(寮や社宅)廃止や、正規雇用労働者への解雇攻撃によって彼らの親の世代も経済的に苦しい状態におかれていることの結果でもある。また、教育費負担の増大は、低所得世帯における若者の非正規雇用や無業者を拡大しており、貧困の再生産をもたらしている。

 最近、厚生労働省の発表した調査結果は、”ネットカフェ難民”といわれるホームレスが全国5400人と推定した。その多くが日雇い派遣であり、最低賃金すれすれで、毎日、就労先があるかどうか不安な状態におかれている。

最賃引き上げは不可欠

 このような状況の打開には、最低賃金の抜本的引き上げが不可欠となる。

 日本の最低賃金は生活保護基準以下であり、フルタイマーの時間給の31%である。だが、最低賃金の国際基準はフルタイマー時間給の60%といわれている。最低賃金を国際比較すれば、日本673円(2006年)に対し、イギリス1010円、フランス1348円、オランダ1310円(月21万円)、ベルギー1250円(月20万円)となっており、日本は異常な低さだ。

 日本同様に先進資本主義国では異常に低い米国の連邦最低賃金も、現行の5・15ドル(620円)を7・25ドル(870円)に引き上げを審議中(下院は通過)。これに伴い各州や自治体でも引き上げが検討されている。すでにニューヨーク市は10・6ドル(1272円)であり、同じ大都市である東京の719円(06年)とは比較にならない。サンフランシスコも現行の8・82ドル(1058円)を、08年から9・17ドル(1100円)に引き上げる予定だ。米国では各州や自治体で最低賃金を決定する。連邦最賃より相当高くなっている。

 しかも、米国では経営者が最低賃金に違反すると、6か月の禁固あるいは1万ドル(120万円)の罰金となる。日本は現行2万円の罰金(50万円に引き上げる計画中)で、違法行為が蔓延している。

 以上のように最低賃金時給1200円は国際基準といえる。また、それは日本のフルタイマーの平均時給2000円の60%とも整合している。

正規・非正規を均等待遇に

 8月3日に行われた首都ワンデイアクションで、最低賃金大幅引き上げの要請に対し、厚生労働省は「中小企業を倒産に追い込む」と抵抗した。

 確かに日本の中小企業労働者の賃金は低い。とりわけ若年層の賃金は時給千円程度となっている。賃金の企業規模間格差の表れで、これも日本に特有のものである。

 日本では、従業員数千人以上の企業の賃金を100とすると、10人以上49人以下の企業では54・2となっている。これに対して、イギリスは95・5、ドイツは73、フランスは81・6、イタリア76・9、スウェーデン93・8であり、規模間格差が極めて小さい。日本の中小企業がグローバル資本によって系列化され、納入単価が極めて低く抑えられて強収奪されていることが最大の問題である。

 EU(欧州連合)諸国で賃金の企業規模間格差が小さいのは、パートタイム労働や期限付き労働者についても正規労働者との均等待遇を法制化しているからだ。

 ドイツは「パートタイム及び期限付き労働契約法」において均等待遇を法制化。パートタイム、フルタイムの移行・復帰の容易化や、正当な理由のない有期雇用は新規採用時(2年以内3回まで)に限定するとしている。イギリスは2000年「パートタイム労働規制」を制定、派遣労働・家内労働を含む週30時間未満のパートタイマーについて時間給他労働条件を同等のフルタイマー以下にすることを禁止。フランスは1981年「パート労働法」で均等待遇を法制化。スウェーデンは2000年、派遣労働者の時給は派遣先労働者と均等とし、仕事がなくてもフルタイマーの月収75%〜85%の支給を義務付けた。

 このように「同一価値労働同一賃金」「均等待遇」を前進させることで、雇用形態や企業規模が異なっても賃金格差が抑えられる。

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 最低賃金1200円要求は、グローバル資本による非正規雇用化に対する決定的な歯止めを作り出す。若者労働市場は、日雇い派遣に象徴的なようにいわば「寄せ場」化し、最低賃金すれすれの低賃金となっている。若者たちが生きていけるために、最低賃金1200円は絶対に必要である。

 そしてその実現は、日本の格差構造変革の展望を切り開いていく重要な目標となる。同一価値労働同一賃金と均等待遇、中小企業に対する税制改革、グローバル企業の不当な納入価格規制の禁止などの法的措置も、同時に求められるのである。

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