二重派遣や禁止業務も
東京労働局は1月18日、派遣業界大手のグッドウィルに対し事業停止命令と事業改善命令を出した。全国708支店のうち、悪質だった67支店は4か月、その他の641支店が2か月の事業停止となる。合わせて、同社から派遣された労働者を二重派遣したとして、物流大手の佐川グローバルロジスティクス(SGL)などにも事業改善命令を出した。
SGLは04年11月から07年8月まで、グッドウィルから派遣された労働者延べ1万1千人を浜松市内の大手通信販売会社の倉庫に送り込んで働かせていた。派遣労働者の申告をきっかけに静岡労働局が立ち入り調査して発覚した。二重派遣は、職業安定法第44条の規定により禁止されている。中間搾取の禁止を定めた労働基準法第6条にも違反する。
SGL以外に西武運輸も、グッドウィルからの派遣労働者を取引先の会社に二重派遣していたことが判明している。さらにグッドウィルは、派遣が禁止されている建設・港湾業務などにも労働者を送り込んでいた。
昨年には同じ派遣業界大手のフルキャストも事業停止命令を受けており、派遣業界全体が違法派遣に手を染めていることがあらわになった。
劣悪な実態の日雇い派遣
派遣労働は、1999年に派遣対象業務が原則自由化、2004年に製造業への派遣が解禁され、派遣労働者は06年で321万人に達している。派遣には、派遣元企業が常用雇用している「常用型」派遣と、派遣元に登録しておき仕事が発生したときに初めて雇用関係を結ぶ「登録型」派遣があるが、06年で「登録型」234万人と多数を占める。
派遣業界の年間売上高は、06年度で前年度比34%増の5兆4200億円。利益の大部分は、派遣先から受け取る派遣料金と労働者に支払う賃金の差額だ。厚生労働省の調べによると、派遣料金は平均で1日あたり1万5577円、賃金は1日(8時間)あたり1万571円、労働者1人につき5006円が派遣企業の懐に入る勘定だ。マージン(ピンハネ)率は約32%にのぼる。
今回問題となった二重派遣や禁止業務へ派遣されているのは日雇い派遣(スポット派遣ともいう)労働者で、その数は厚労省調べでは約5万1千人とされるが、実態はもっと多い。スポット派遣で生計を立てている人は「百万人近い」(1/15東京新聞)との報道もある。
スポット派遣の労働者は携帯電話やメールで連絡を受け、指示された場所に出向き、迎えのバスで作業現場に送り込まれる。危険な仕事をさせられたり、約束と違う会社に連れていかれても、翌日から仕事を回してもらえなくなるのではないかと心配で文句を言えない。派遣労働者の中でもとりわけ劣悪な状態にあり、ワーキングプア層を形成している。
派遣先企業は、日雇い派遣に関しては例外的に、派遣労働者を管理する責任者を置いたり管理台帳を作成する義務を免除されている。そうしたことが、違法派遣や不正な給与天引きなどの横行を許す素地をつくってきた。多くの派遣企業は、日雇い労働者を政府管掌健康保険や厚生年金などの社会保険にも加入させていない。使い捨てにできる便利な日雇い労働者が欲しいという企業の要求を受け、労働者の保護はまったくないがしろにされてきたのだ。
政府は日雇い派遣維持
フルキャストやグッドウィルで組合を結成した派遣ユニオンは、ワーキングプアの解消と雇用の安定をめざして、(1)派遣対象業務を専門業務に限定すること(2)常用型派遣を原則とする制度に転換すること(3)マージン率に上限を設けること(4)違法派遣について派遣先の直接雇用とみなすことを柱とする労働者派遣法の抜本的改正を求めている。
政府は、企業や規制改革会議が要望してきた派遣労働のさらなる規制緩和については労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の中間報告を受け、見送ったものの、労働者が求める日雇い派遣の廃止については「指針」をつくることで逆に存続を図ろうとしている。
グッドウィルの事業停止で日雇い派遣問題は解決しない。日雇い派遣を拡大してきた政府・厚労省の責任が問われなければならない。
違法派遣の温床となり、ワーキングプアを生み出している日雇い派遣は、廃止しなければならない。また派遣労働そのものも、対象業務の限定や登録型から常用型への転換など抜本的改革が必要だ。