2008年02月22日発行1023号

【マクドナルド残業代裁判で勝訴―"偽装管理職で不払い"を断罪 / 許されない奴隷労働】

 1月28日、東京地裁は日本マクドナルドに対し、店長の高野広志さんに未払いの残業代と課徴金など合わせて755万円を支払うよう命じた。

 日本マクドナルドは、高野さんら店長が「管理職」であり、労働時間の制限や時間外労働の割増賃金支払い義務が例外的に適用されない「管理監督者」であると主張した。東京地裁は、日本マクドナルド側の主張を退け、高野さんの雇用実態から労働基準法で定める「管理監督者」ではないと認定した。

過労死水準の店長

 労働基準法により、使用者は労働者に1週間あたり40時間、1日あたり8時間を越えて労働させてはならない。この原則は使用者の義務である。この義務を果たさず、時間外労働をさせた使用者に対して懲罰的な意味を込めて課せられるのが時間外の割り増し賃金=残業代だ。

 労基法は、労働時間の制限や割増賃金の規定の適用除外をうける労働者として、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」をあげている。これが、日本マクドナルド側が主張した「管理監督者」だ。

 この管理監督者の条件として、過去の判例も行政通達も(1)職務遂行上、経営者と一体的な地位にあるほどの権限を有し、これにともなう責任を負担している(2)本人の裁量で、勤務時間を自由に調整できる権利を有している。出退勤が自由である(3)その地位にふさわしい処遇(役員手当や賞与の優遇措置など)を受けている などをあげている。

 日本マクドナルドの店長の労働実態はこのどれにも該当していなかった。

 一般社員やアルバイトと同じように、清掃・調理から倉庫の商品管理までしている。店員が休んだりやめたりすればその穴埋めもしないといけない。「出退勤が自由」どころか、休むこともできない。複数店舗を掛け持つ店長など、自家用車で仮眠をとって渡り歩く毎日。決められた休日ですら休むこともできない。店舗運営は常に上司の判断を得ながらで、とても「経営者と一体」といえるような権限は与えられていない。

 高野さんも、営業時間の拡大に対応し、営業ノルマを達成するために、スタッフを減らして自らその穴埋めをしてきた。正社員は高野さん一人。過労死の労災認定水準である月100時間を越える時間外労働が常態となっていた。

 「管理職」という肩書きではあっても到底経営者と一体とは言いがたいという裁判所の判断は、全く当然のものだ。

まん延する偽装管理職

 日本マクドナルドの店長は、全国で約1700人。その給与は店長の10%が部下を下回り、40%が部下をわずかに上回るのみ。全員に残業代を支払えば総額で数十億円にものぼるという(1/30 朝日)。

 日本マクドナルドは外食産業では群を抜く高収益を上げてきた。持ち株会社である日本マクドナルドホールディングスの07年12月期の連結決算で売上高は、3950億円。純利益75億円だ。「偽装管理職」の「奴隷労働」はその裏側にある。

 チェーン店を展開し急成長してきた多くの外食・小売産業は、日本マクドナルドと同様、店長を管理職と偽装し、長時間の奴隷労働を強いてきた。外食産業では、モスフードサービス、日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)。衣料品では、ユニクロ、青山商事、コナカ。家電では、ヤマダ電機、エディオン。コンビニでは、セブンイレブン・ジャパン。CD・DVDレンタルのTSUTAYA、玩具販売の日本トイザらスなど、あげればきりがない。

 日本マクドナルドと同様の訴訟で敗訴したコナカは、06年10月、店長にも残業代を支給するようになった。KFCも同様の変更、セブンイレブンもマクドナルド判決を受けて残業代支給を決めた。他にも、金融機関や技術情報系会社、カラオケ店店長などで同様の残業代の支払いを命じた判決も出ている。

 もはや、偽装管理職の残業代ピンはね・奴隷労働は許されない。

闘えば勝てる

 日本マクドナルドホールディングスは資本金241億円、従業員5000人を抱える大企業だ。マクドナルド本体は、全世界規模の典型的な食品グローバル産業であり、米国をはじめ徹底した労働組合つぶしで有名だ。高野さんは、管理職ユニオンに個人加盟し、団体交渉で残業代支払いを要求。「店長は管理監督者」との主張を繰り返し要求に応じない会社を相手取って、今回の裁判にいたった。この裁判の過程で06年末、高野さんのように残業代未払いに疑問を持っていた店長たちが日本マクドナルドユニオンをたちあげ、一般社員やパート・アルバイトも組織する全国組織へと発展している。

 マクドナルド訴訟は、闘えば勝つことができるという展望を示した。

 労基法による罰則の強化や、時間外労働への割増賃金の大幅な引き上げによる実効性のある規制とともに、残業をしなくても安心して生活できる賃上げと最低賃金の国際水準へのアップが必要だ。

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