2008年03月07日発行1025号

【「そこのけそこのけ軍艦が通る」 「軍事優先」が漁船を沈めた】

 2月19日午前4時7分、海上自衛隊のイージス艦「あたご」がマグロはえ縄漁船・清徳丸に衝突、沈没させた。

 重量7750トン全長165メートルのイージス艦が7・3トン12メートルの漁船の側面に体当たりを食らわした。大型トレーラーが幼児の三輪車を踏みつぶしたに等しい。

 漁船の船体は強化プラスチック製。イージス艦の装甲と比べれば紙のようなものだ。漁船は中央をスッパリと切り取られた形で一瞬にして3分割された。中央の操舵室は水没。2名の漁師は冷たい海に投げ出された。

非はイージス艦にあり

 現場海域は、漁船・民間船舶も多数行きかう。接続する東京湾には一日700隻近くが往来する。被害にあった清徳丸も、他の漁船3隻と船団を組んで出漁の途上にあった。

 海上衝突予防法では、航路が交錯する場合は相手船を右手に見る船舶が右に進路を変えて衝突を回避しなければならない。向き合う場合は、双方が右に針路変更しなければならない。

 先行していた漁船の幸運丸は衝突の危険を感じて速度をあげて「あたご」をやり過ごし、後続の金平丸も緊急回避しことなきを得た。清徳丸も回避行動をし間に合わなかった可能性がある。

 いずれにしろ、「あたご」側に回避義務があり、船団側に非は微塵もない。にもかかわらず、「あたご」は船団を断ち割るかのごとく直進を続けた。

 「あたご」は、全速後進をかけても停船が間に合わない距離に清徳丸が入らないよう、汽笛を鳴らすなどの警告を発しないといけないが、漁船団は汽笛を聞いておらず、ここでも衝突予防法に違反した。

 全速後進時に右転していれば、停止までの距離は短くなり衝突を防げた可能性もあるが、「あたご」は減速しただけだった。

 「あたご」側は、一切の回避努力をしなかったと言っても過言ではない。

 しかも漁船団は、衝突30分前にレーダーで「あたご」の存在を確認している。漁船のレーダーが感知しているのだから、当然「あたご」も感知しているはずだ。衝突12分前に、見張りの「あたご」乗組員は漁船を目視で確認している。にもかかわらず「あたご」は自動操舵を続けていた。

 地元漁協はもとより、石破防衛大臣ですら「午前4時という時間にいくつかの船が向かっている海域であり、太平洋の真ん中と同様の自動操縦は一般論として適切ではない」と認めざるを得なかった。

自衛艦が危険生み出す

 イージス艦の見張りは「複数の漁船がいるのはわかっていたが、相手がよけてくれると思った」と第3管区海上保安本部の事情聴取で証言している。現場自衛官に、「そこのけそこのけ軍艦が通る」という意識がしみついていることを示すものだ。

 政府は海幕長を更迭し、「防衛省改革」をはじめるなど対応策を打ち出している。しかし、これは火消しのためのポーズに過ぎない。

 渡辺金融担当大臣は「万一、自爆テロの船ならどうするのか」と発言している。言外にあるのは「漁船だったからよかったものの」の一言に違いない。軍の行動にとって、民間人の命などそもそも考慮の外にある。

 この軍事優先が自衛官の「おごり」を許し、今回の事故をひきおこした最大の原因だ。

 元海上自衛隊幹部は「小型船が行きかう近海を航行する技能に関しては、イージス艦の乗員は民間船の乗員と同等か、むしろ低いかもしれない」と述べている(2/22朝日)。「あたご」はハワイ沖で日米共同訓練に参加したあと、横須賀港に戻る途中で清徳丸を踏みつぶした。戦闘訓練に血道はあげても、安全航行の練度を上げる訓練はしていないのだ。

 日本の海を危険にさらしているのは、好戦勢力が口にする「北朝鮮の不審船」などではない。戦闘しか頭にない軍艦(自衛艦)の存在だ。

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