2008年04月04日発行1029号

【全国学力テストは中止だ/テスト至上主義に陥る学校現場/強いられた競争が教育を壊す】

 文部科学省による全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が今年も4月22日に行われようとしている。教育委員会レベルで「学力向上プラン」が作成され、学校現場の尻をたたくなど、全国学力テストは子どもたちの教育に大きな影響を及ぼしている。学力テスト体制というべき競争主義教育の激化は何をもたらすのか。


進行する成績競争

 文科省によると、08年度の学力テストには国立157校、公立3万2060校、私立472校が参加する(2月末現在)。国公立では今年も愛知県犬山市(小学校10校、中学校4校)だけが参加しない。

 国公立の参加率は07年度と変わっていないが、私立校の参加率は8ポイント減の53%となった。不参加の理由について、ある私立中の関係者は「問題が平易すぎ、参加する意義が薄い」「時間のムダ」と正直に語っている。私立の進学校にとって文科省の学力テストは「エリート育成をめざす我々には関係ない話」という認識なのだろう。

 一方、公立校は全国学力テストがもたらす成績競争に否応なく巻き込まれている。たとえば、都道府県別の学テ成績が45位だった大阪府では、府教委が「学校改善のためのガイドライン」を作成し、各学校に授業改善を促している。また、大阪市は学力向上策として習熟度別少人数学級を実施しているが、その成果を各学校に学力テストの成績など数値化したデータで求めるようになった。

 これらの事実から明らかなように、全国学力テストの本質は学校評価・教員評価の指標を得るための行政調査である。究極の目的は市場原理による教育費の削減だ。実際、財界は学力テストの結果を全面的に公開し、学校予算の配当や教員の給与にも反映すべきだと主張している(たとえば、規制改革・民間開放推進会議第2次、第3次答申)。

 都道府県別のテスト順位に右往左往している各自治体・学校の状況をみていると、全国学力テストによる教育支配がすでに進行していると言わざるを得ない。これに学校単位の成績公開や学校予算の傾斜配分、学校選択制が加わったらどうなるのか。想像するだけで恐ろしい。

東京・足立区の先例

 実は、この教育破壊3点セットを先行実施している自治体がいくつかある。ここでは東京都足立区の事例をみていこう。区の学力テストにおいて学校ぐるみの不正行為が発覚した、あの足立区である。

 足立区教委は2000年度以来、競争原理の導入を柱とする様々な「教育改革」を打ち出してきた。小中学校に全面的な学校選択制を導入し、東京都や区独自の学力テストの学校別成績を区のホームページで公開してきた。07年度からはテストの成績(伸び率)を学校への特別予算に反映する制度も取り入れた。

 公開された学力テスト結果は学校選択の指標として機能する。成績が下位の学校は入学者が少なくなり、場合によっては統廃合の危機にさらされる。そのうえ予算まで学力テストの成績に応じて決まるとなれば、学校現場がテスト至上主義に陥っていくことは避けられない。

 07年度の場合、特別予算の最高額は小学校で374万円。最低額の学校との差は約300万円にのぼっていた。特別予算の配当が少なかった小学校の教員は「次のテストは、うちも類似問題を練習させたらどうだ」と校長から指示されたと証言する(07年9月27日付読売新聞)。

機会均等の保障を

 学力向上を大義名分とした区教委による競争の徹底−−学力テストをめぐる不正は、こうした中で発生した。

 校長が教員に指さし(テスト中、監督者が答案を見て回り、間違いを指で示すなどして正答に導く行為)を行うよう指示したり、情緒障害などのある子どもの答案を集計から除外していた区内西部のA小学校。A小こそテスト成績を前年から大幅に引き上げ、区内最高額の特別予算を獲得した小学校であった。

 平均点を引き上げるために、障害のある子どもを除外するなど人権侵害もはなはだしい。学力テストの成績最優先の競争主義が学校現場を「人格の完成」とはほど遠い場所に変えてしまう見本である。そんな学校で子どもたちが豊かな人間性や本当の知性を育めるはずがない。

   *  *  *

 足立区は就学援助を受けている児童生徒の割合が4割を超えている。全国学力テストの「順位」が低かった大阪府や北海道、沖縄県も就学援助率が高い。経済的に苦しく就学援助を受けている家庭の多い学校が、少ない学校より平均正答率が低いことは文科省のデータでもはっきり裏付けられている。

 収集した情報は教育政策に生かすと文科省が言うならば、国際基準からみて教育費の自己負担が極めて大きい日本の現状を改め、経済力による教育格差を是正する措置を行うことが第一である。テストによる競争ではなく、「教育の機会均等」を真に実現することが求められている。(M)

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