2008年08月15日発行 1047号

【憲法9条を「守る」から「つくる」へ 意義を増す無防備地域宣言運動】

 無防備地域宣言運動は戦争国家に対して市民が安全に生きる地 域づくりを対置する運動として全国に広がり続けている。全交大会ではシンポジウムや討議・交流の場を通じて今後の方向性について議論が重ねられた。

100自治体へ

 シンポジウムのパネリストは前岩国市長井原勝介さん、沖縄国際大学教授石原昌家さん、前国立市長上原公子さん。運動経験や研究に基づく提言で意義が深め られた。

 井原さんは市民自治を掲げて米軍再編移転と闘ってきた体験を踏まえて、無防備運動への反対者が常に唱える「外交・国防は国の専管事項」論を批判。石原さ んは多大な文民被害を生んだ沖縄戦の研究成果からジュネーブ条約が規定する軍民分離原則の意義を明確にした。自治体首長として条例案に賛成意見を付した上 原さんはこの運動が市民の自治の力を育てていくと指摘した(それぞれ要旨別掲)。

 コーディネーターの無防備地域宣言運動全国ネット事務局の矢野秀喜さんは、イラク派兵を違憲とした名古屋高裁判決や「9条世界会議」の成功を挙げ、「9 条を守るのではなく平和的生存権を地域から実現する運動として無防備地域運動の意義は増している。さらに100自治体へと運動を広げよう」と提起した。

札幌で平和予算5倍に

 交流の口火を切ったのは、札幌市の無防備・平和のまちをつくる札幌市民の会の谷百合子さん。市が平和事業担当係を設置し、平和予算を5倍に増額した変化 を紹介して「使い道について市民が目を光らせる必要がある。否決を許すわけにはいかない、と議員リコール運動についても議論を始めている」と市民の側から 流れを作る意義を強調。「結成した北海道ネットワークは帯広をはじめ全道に種をまいています」と報告した。

 この1年、直接請求署名運動は札幌市を含め4自治体で行われ、累計で全国24自治体・41万筆となった。

 運動が広がる一方で、「市民派」と言われる尼崎市長が「有事の際の避難は消防、警察、自衛隊で」と意見を述べ、川崎市では市長が「署名者は内容を理解し ていたのか」と放言し議員から「無防備宣言は内乱罪」発言がでるなど、議論内容は後退している。

 委員会での参考人招致を実現した尼崎市から「今後につながるしっかりとした反論を準備する」と決意。また、「準備段階から議員と積極的に会う努力を」 「地域のミニコミ紙を含めて世論形成を図る」などの提案もあった。

 条例案が否決されて以降も平和な町づくりへと運動を継続している各地の取り組みも紹介された。国民保護計画についての全自治体アンケート・要請行動を 行った無防備地域宣言運動京滋ネットは「国の言うままが多く、国際人道法への無理解も目立つ。保護計画の内容を把握して自衛隊との協力関係を監視する運動 が必要」と提言。奈良市からは紛争時の文化財保護を規定するハーグ条約に基づいて遺産登録を求める署名運動を開始しているとの報告がされた。大阪府枚方市 はペープサートで、市の談合腐敗行政をただす運動を紹介した。

沖縄・那覇市でも

 今年秋以降に予定されている直接請求署名は4自治体。9月20日スタートの大阪府寝屋川市からは「さまざまな集まりに顔を出して、市民が求めていた運動 だ、と確信を深めている。市民が主人公になる一歩に」と決意。京都府精華町は「東洋一と言われた弾薬庫がある。顔見知りが多い田舎町で一人ひとりと安心で きる町づくりを語り合う」。大阪府吹田市は来年の開始を予定。「地域の様々な市民運動を束ねる運動をつくる」。那覇市は「3月から毎月学習会を重ねてき た。軍の強制死を問う沖縄靖国合祀訴訟と戦争協力を拒否する無防備運動とは戦争国家づくりと対決する運動の両輪」と意義を語った。

 論議について助言に立った上原さんは「無防備運動は自分たちの地域に生じるすべての課題に向かい合って平和的生存権を生み出す運動。議員も含めて誰もが 加わる学習の場をつくることが民主主義の成長につながる」と励ましの言葉を送った。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS