2008年08月29日発行 1048号

【兵庫・尼崎市の無防備平和条例 議会審議始まる 議会を動かした軍民分離原則 委員会採決せずに継続審議に】


 兵庫・尼崎市の無防備平和条例案の議会審議が8月19日、総務消防委員会で行われた。全国で初めて請求代表者5人全員が参考人招致され、参考人質疑が 実現したことで、質疑は充実。とくに住民の安全の確保のためには軍民分離の徹底が必要であることが浸透し、無防備地域に実効性がないとする市当局の論理は 破綻した。その結果、この日の委員会では採決せず、継続審議としてさらに慎重審議することとなった。1万5千筆をこえる市民の平和への願いは無視できず、 議会を動かす原動力となったのである。

 尼崎市で初の直接請求であるにもかかわらずその重みを受け止めなかった市当局・議会であったが、やっと議会が動いた。その力は1万5千筆の署名にこめた 市民の思いと参考人招致の実現だった。

参考人質疑が実現

 本会議ではなく委員会での意見陳述となったが、請求代表者は条例への思いを切々と訴えた。

 高島ふさ子さんは条例を提案した理由を、宮城正雄さんは沖縄戦の教訓から軍民分離の必要性を訴えた。中村大蔵さんは国権から自立した地方主権の重要性を 語り、原田昇さんは初の直接請求の重みを無視した当局の対応を批判、近藤伸一さんは市長意見書への反論を展開した。

 意見陳述は全体で30分間との制限がついたが、引き続いた参考人質疑は1時間20分にも及んだ。

 議員からは相変わらず国際人道法の無理解をさらけだす質問が相次いだが、参考人は的確に答えた。

 「無防備地域宣言は戦時のルールで、軍民分離を平時から行うのは無理では」に対しては、「ジュネーブ条約第1追加議定書48条は軍民分離を原則とし、 58条ではその予防措置を規定している。軍事目標を地域に置かないためには平時から努力するしかない」。「無防備4要件のうち敵対行為が行われないとは、 正当防衛・自衛権も放棄することか」には「占領軍も国際法を遵守しなければならない。無防備地域は無抵抗な地域ではない。警察の治安活動も許される。武力 的な敵対行為でないかぎり、非武装・非暴力の抵抗は許される」など。

 なかでも沖縄県人会兵庫県本部相談役の宮城さんの発言は圧巻だった。宮城さんは沖縄地上戦当時の島田沖縄県知事のエピソードを紹介した。兵庫県出身の島 田さんが沖縄県知事に任命されたのは、1945年1月。5月に日本軍が開いた最後の作戦会議にオブザーバー参加した島田知事は軍民分離を提議。住民を知念 半島に移しそこを無防備地域にすることを米軍に通達するよう要望したが、日本軍は聞き入れず、住民を巻き込んだ地上戦となった。「この軍民分離が認められ ていれば、県民の4人に1人が犠牲となる残酷な結果にはならなかった」と宮城さんは無念さを胸に軍民分離の徹底を訴えた。

署名の重みが動かした

 続いて当局への質疑に移ったが、当局を擁護する質疑とはならなかった。

 市民平和条例案は8条から構成されている。しかし、市長意見書は無防備地域宣言の項目の6条だけを批判して反対としている。市民の平和的生存権の3条や 平和の街づくり計画の7条などの評価を問う質問が相次いだ。

 そして、ついに反対の意見書を書いた白井市長自身を委員会質疑に出席させることが決まった。

 市長が同席した後、この日の審議を象徴する質疑があった。「国民保護計画では避難所などに特殊標章を交付する権限が市長にある。軍民分離の非武装地帯で 攻撃してはいけないというものだ。これには実効性があるのに、同じ考え方の軍民分離の無防備地域になぜ実効性はないのか」の質問に、市長は「国が認める範 囲」と国のお墨付きに固執。当局も「避難所は狭い場所。無防備地域は広いエリアだから」と助け舟を出したが、「広くなるとなぜダメなのか。住民を守るとい う軍民分離の考え方は同じではないか」の問いにはまともに答えられなかった。

 質疑が終了して、委員会は今後の取り扱いを協議。「市民から発議された議案の意図をなんとか生かせるようにしたい」などの意見が出て、継続審議として慎 重審議をすることを全会派一致で決定。採決は9月定例議会に持ち越しとなった。

 わずか10席の傍聴席の3倍以上の市民が駆けつけた委員会審議を、尼崎市に平和無防備条例をめざす会事務局長の高島さんがまとめた。

 「質疑が少なく、簡単に採決に行ってしまうのではとの危惧があったが、予想に反して長時間となり、継続審議となった。傍聴の力の結果であり、市民の署名 の重さが議会を動かすことができた」
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