2008年10月24日発行 1056号

【エクアドル 国民投票で新憲法を圧倒的承認 新自由主義からの脱却めざす】

 進行する世界金融恐慌は、新自由主義・市場万能主義の破綻を示した。戦争と新自由主義路線 からの根本的転換を実現していく上で、中南米の取り組みは世界の民衆を勇気づけている。新自由主義との決別をうたった南米エクアドルの動きを紹介する。

2つの発展モデルの選択

 9月28日に国民投票が行なわれたエクアドルの新憲法草案は、投票率94%、賛成64%で承認された。コレア大統領は「歴史的勝利だ。これでエクアドル は新しい国になる」と勝利宣言した。

 新憲法草案は、新自由主義からの脱却をめざすコレア大統領の考えを反映し、エクアドルの経済体制を「社会的・連帯的」と規定。石油収入を国民生活の向上 に振り向けるために国家による資源管理強化を盛り込んでいる。天然資源の収益の半分以上を国が取得し、それを財源に公共医療や公教育の無償化を実現しよう というのだ。また不安定雇用を原則禁止とした。こうした政策を実現するために、大統領権限の強化と国民の国政参加(地方自治の形成、市民参加による社会コ ントロール委員会の創設など)も盛り込まれた。

 こうした内容の新憲法が国民の圧倒的な支持を獲得した背景には、米国主導の新自由主義経済による貧困の増大と格差の拡大、外国資本や一部の特権的支配層 による富の独占に対する先住民や貧困層の怒りや不満がある。

 コレア大統領は「過去への後戻りか、新自由主義を葬るのか。争点は2つの発展モデルの選択だ」と国民に訴えた。

背景に地域協力の進展

 国民の信任を受けたコレア大統領は9月30日、対外債務について「国家の情勢が許せば外国との約束を順守するが、危機になれば政府は社会のための費用に 優先度を置く」と述べた。エクアドルは約100億j(約1兆円)の対外債務を抱えている。コレア政権は、昨年7月に国内のNGOや第三世界の債務帳消しに 取り組んでいる国際組織のメンバーを加えた債務統合監査委員会を発足させ、公的債務の取り扱いを検討してきた。先の発言は、同委員会での論議を踏まえたも のだ。
 
 コレア政権が新自由主義からの脱却を掲げる背景には、中南米で相次いで誕生している左派・中道左派政権による地域協力の動きがある。

 域内の貿易自由化と対外共通関税の実施を目的に発足したメルコスル(南米南部共同市場)は加盟国5か国(アルゼンチン、ブラジルなど)に準加盟国5か国 (ボリビア、エクアドルなど)が加わり、ドルに代わる共通通貨の創出や加盟国の格差解消に向けインフラ整備を進めるメルコスル開発銀行の創設が議論され始 めている。

 ベネズエラのチャベス大統領が提唱した「米州ボリーバル代替構想」という名の社会・経済協定も重要だ。これは、加盟国同士の経済的補完と協同をめざすも ので、この協定に基づいて石油産油国のベネズエラが石油をキューバに提供し、キューバは医者と教師をベネズエラに派遣している。エクアドルのコレア大統領 も参加の意向を示している。8月29日にはベネズエラとエクアドルとの間で、ベネズエラ南東部のオリノコ油田の研究・開発を両国の国営石油会社が共同で進 めるという協定が調印された。

 また南米6か国によって南米銀行の設立が決まった(07年11月)。これは、投機から各国通貨を防衛し、IMF(国際通貨基金)・世界銀行への依存を減 らしインフラ整備のための低利融資を行なうためのものだ。米国発の金融危機を受けて9月30日に開かれたブラジル・ベネズエラ・ボリビア・エクアドルの4 か国首脳会談では、「金融危機の代償を払わされているのは米国や世界の貧しい人びとだ。この事実は、経済モデルの変革を真剣に検討することを求めている」 (モラレス・ボリビア大統領)など新自由主義経済への批判が相次ぎ、「南米銀行が機能すれば、有害な新自由主義システムから南米を決定的に解放できる」 (チャベス・ベネズエラ大統領)と、南米銀行への期待が高まっている。

外国軍事基地を撤去へ

 新憲法草案はエクアドルを「平和の領土」と宣言し、外国の軍事基地・施設の設置を認めないこと、核・生物・化学兵器の生産・保持・通過を禁止することを 明記した。

 エクアドルは1999年に米国と基地貸与協定を結び、マンタ空軍基地内の一部が米軍に貸与された。コレア大統領は、米軍との合同演習を中止し、2009 年に期限が切れるこの協定を更新しないと明言してきた。米軍基地の撤去を求める平和運動の意向も受け、新憲法にそのことが明記されたのである。米軍基地の 撤去は、中南米における紛争の平和的解決を促進する上で、大きな意義を持つものだ。
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