2008年10月31日発行 1057号

【ドイツ戦後補償財団理事が来日、講演/不正の償いは歴史的義務】


 ドイツの補償基金「記憶・責任・未来」財団のギュンター・ザートホフ理事が来日し、10月15日都内で講演し た。同財団は政府と企業が50億マルク(約7600億円)ずつ拠出して2000年に設立された。07年までに約100か国170万人の強制労働被害者及び ナチス犠牲者に合計49億1000万ユーロ(約7300億円)を支払い、個人補償のプログラムを終了した。

  講演から、いまだに侵略・植民地化の歴史に背を向け補償を拒み続ける日本政府の傲慢さが浮き彫りとなった。補償は財源問題ではなく、政府の姿勢にかかって いる。(講演のまとめは編集部による)


 私は真相を究明する皆さんを勇気づける人間としての立場から話したい。何をなすべきかを語るつもりはない。答えはそれぞれ自身が見出すものだから。

 本質的な問いかけは、ひとつの社会、ひとつの国家が、自らの過去と不正の歴史に対し真摯で説得力のある取り組みをする用意があるかどうかだ。不正との取 り組みを怠ることは、幾世代にわたって社会間、国家間の和解を困難にし、新たな紛争の火種ともなる。不正を物的ないしは道徳的な行動で認めることを拒否す れば、犠牲者の尊厳を永続的に冒し続けることになる。

 ナチズムの犯罪は、600万人のヨーロッパ・ユダヤ人殺害、ほぼ50万人の「ジプシー」殺害、40万人以上の強制的不妊化・断種・「安楽死」、中部・東 ヨーロッパ諸国への侵略、第2次世界大戦へと至ったポーランド侵入、1200万人以上を故郷からドイツへ連れ去り、強制労働させたこと、などだ。

 戦後西ドイツでは、過去と向き合うことが、外からの圧力とともに内部からも生まれた。1960年代末には、加害者の子どもたちと加害者であった両親との 世代間対立があった。しかし、「被害者」への視点は後からで、80年代に入って大量殺害や人道の罪全体への視点、加害者への犯罪追及、被害者への配慮(補 償要求)が生まれた。89年のベルリンの壁崩壊は補償問題にも大きな転換をもたらした。

経済界も基金に参加

 人道に対する罪との最後の大きな取り組みが「記憶・責任・未来」財団の設立だ。社会民主党と90年同盟/緑の党の連立政府による98年の声明に「かつて の強制労働者のためにドイツ経済界も参加した連邦財団」を設立する意志が明文化された。89年以降、ポーランドやチェコ、バルト3国、国際的なユダヤ人組 織などから、ドイツの補償法の対象外だったナチスの強制労働・不正の被害者の要求が高まっていた。さらに、強制労働者を利用して私腹を肥やしたドイツ大企 業に対する米国での訴訟。これらが政治的解決を促した。99年には「許しを請う」というラウ大統領声明が発せられた。

 財団設立をめぐっては、政府や諸政党内に意見の相違があった。当初、補償に疑念を抱いていた各省庁の役人は法律制定協力へと変わった。補償に反対してい たキリスト教民主・社会同盟と自由民主党は、98年以降の流れに吸い込まれ、財団設立は不可避になった。

 与党のみならずドイツ国民全体の歴史的義務が問題となり、私は「ボートに一緒に乗る」よう提案した。結果、財団設立法は「勝者も敗者も」いない数少ない 法律となった。

 成功の要因の第1は、自らの歴史に対するドイツの責任と道義的なまとまりが問題だと意識させること。第2は、他の政党・政治勢力、企業に行動を共にする よう誘うこと。第3は、まず近くの「同盟相手」と関わり、その後にこうしたもくろみの「敵」と関わること。

 最も重要なのは、政治の道義化をもたらした連邦大統領による公式の謝罪とともに、法律の前文だ。ここに至るまで25回も作り直した。財団の管理委員会に は、ナチス体制下で最も苦しんだ国々の代表や重要な犠牲者機関の代表も参加している。補償金の申請は、ドイツの部局によってではなく、国際的なパートナー 機関によって受け付られ、審査決定される。支給額は、強制連行の持つ重さによって、5千マルクから1500マルクの範囲で決められた。強制収容所の収容者 であれ、ゲットーの収容者であれ、ポーランドであれ、ウクライナであれ、同じ額を受け取る。

不正の記憶を維持

 財団の個人補償のプログラムは無事終了し、財団の仕事は新たな段階に入っている。

 不正についての記憶を維持し、生存する犠牲者に人道支援を行なうことが基本だ。「ノーモア」の意味から、少数者差別やネオナチなど今日の問題に取り組 む。そのため、継続して年額約800万ユーロを準備している。大戦終結60周年(2005年)には、強制労働をテーマにした展示会を諸外国で実施、被害者 と加害者の想起(記憶)の文化の対話を開始した。歴史から教訓を引き出そうと、「ヨーロッパ歴史ワークショップ」で共通の体験について対話を促し、青少年 が実際に被害当事者と交流する出会いのプログラムに取り組んでいる。

 皆さんの道が困難であっても、気高く道義的な意味で名誉ある仕事に関わっている確信が皆さんを支えるだろう。私は皆さんを信じている。がんばってくださ い。
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