2009年01月09日発行 1066号

【米シカゴ現地取材 閉鎖・解雇に抗議 工場占拠で勝利 「立ち上がれば変革をかちとれる」】

  米シカゴの建具製造会社リパブリック・ウィンドウズの労働者が工場閉鎖に反対して職場を占拠していた闘いが勝利を収めた。12月15日開かれた祝賀集会で 労働者の代表は「これはすべての労働者の勝利。立ち上がれば変革をかちとれる」と語った。金融恐慌を口実にしたグローバル資本の横暴に対する労働者の貴重 な勝利を本紙浅井健治記者が報告する。

全世界の労働者が共感

 工場占拠は12月5日に始まった。窓やドアを製造するリパブリック・ウィンドウズ社が取引銀行のBOA(バンク・オブ・アメリカ)による融資打ち切りを 理由に突然工場を閉鎖し、労働者全員を解雇したためだ。要求は、法律で定められた解雇予告手当(8週間分の賃金)の支払いと未消化の有給休暇の補償など。 占拠は、同社従業員の大半の260人を組織するUE(全米電気・無線・機械労働組合)第1110支部によって取り組まれた。ほとんどがラテンアメリカ出身 の移住労働者だ。

 リパブリック労働者の工場占拠闘争は地元シカゴだけでなく全米全世界の労働者の共感と支援を集め、オバマ次期大統領までが「彼らは働いて得た給料の支払 いを求めているだけ。全くその通り」と支持を表明。ついに12月10日、会社側はUE1110支部に対し総額175万ドル(約1億6千万円)を支払う解決 案を提示し、これを8週間分の賃金と今後2か月の健康保険給付、未取得休暇の補償に充てることで合意した。UE支部はただちに工場内のカフェテリアで組合 員集会を開き、全会一致で解決案を承認。6日間にわたる工場占拠は勝利のうちに終結した。

世論を動かす

 12月15日、労働組合事務所が立ち並ぶ通称ユニオン・ストリート、アシュランド通りに面したチームスターズ(全米トラック運転手組合)第705支部の 会館で「リパブリック・ウインドウズ労働者の勝利を祝う集い」が開かれた。約300人の参加者を前にUE1110支部のアルマンド・ロブレス委員長は「こ れはわれわれだけでなくすべての労働者の勝利だ。この国はよりよい方向へと変わりつつある。労働者が立ち上がれば、もっと多くのチェンジ(変革)をかちと れる」と高らかに宣言した。

 演壇からの祝賀スピーチは勝利の意義を強調する言葉であふれた。「歴史的出来事だ。97年の(宅配便最大手)ユナイテッド・パーセル・サービスでの2週 間のスト(パートの正社員化などを実現)に続くもの」「私の祖父はポーランド移民。父も仕事がなかった。リパブリック労働者の闘いは限りない刺激となる」 「裁判に訴える方法もあったが、勝利まで何年もかかっただろう。あなた方は自ら立ち上がり、家族と共に闘い、全国に支援を呼びかけ、世論を動かす道を選ん だ。雇用主と銀行に人間としての尊厳を見せつけた」「経営者の命令を聞き入れる必要などないことを示した。押されたら押し返せばいい。1930年代の職場 占拠闘争もそうだった」……

「工場に戻らなくちゃ」

 UEは組合員3万5千人。AFL―CIO(米労働総同盟・産業別組合会議)などのナショナルセンターに属さず、「現場組合員主導の労働組合主義」をモッ トーに民主的組合運営を進めてきたことで知られる。そのUE1110支部の勝利に、上部団体所属の違いを超えて多くの労組が祝意を伝えた。「自動車メー カーは経営危機を利用して非組合員への雇用置き換えを狙っている。一つの組合の勝利を全労働組合の勝利に」(UAW=全米自動車労組)「闘う組合、闘う指 導部を労働者が必要としていることを1110支部は示した。これは出発点。正義を取り戻そう」(チームスターズ)「占拠労働者が示した勇気に心から敬意を 表明する」(SEIU=国際サービス従業員組合)……

 勝利を導いた力の一つは、組合員と家族の自発性と団結だ。ロブレス委員長は振り返る。「以前、労働者はばらばらだった。4年前UEに加入して団結づくり が始まり、職場の不満を取り上げて労働協約交渉に生かしてきた。今回の占拠も組合員みんなで決めた。占拠を財産権侵害と非難する会社には『この国は自由な 国。言論の自由がある』と言い返した」。女性組合員はスペイン語でこう語った。「占拠の日は娘の誕生日。でも娘は『ママは工場に戻らなくちゃ。ママのお友 達がいるんでしょう。工場に戻って』と言ってくれた。すばらしい体験だった」。男性組合員は「子どもたちの未来をかけた闘い。大変な闘いだったが、妻たち は強かった。みんな『私たちも座り込む』と言い、前にも増して夫たちを愛するようになった」と発言し、笑いを誘った。

地域の分厚い支援

 この現場の力に地域の分厚い支援が加わった。労働組合だけでなく、ジョブズ・ウィズ・ジャスティス(公正な仕事を)やUSLAW(米国反戦労働者の会) といった労働運動活動家のネットワーク、移住労働者・難民を支援する人権団体などが迅速で力強いサポートを行なった。勝利の集いを主催したのも、「労働問 題に取り組むシカゴ・インターフェイス(異宗教間)委員会」という宗教者のグループだ。集いで上映された「連帯と勝利」と題する写真記録には、占拠2日目 「コミュニティ支援集会」、4日目「市役所集会」、5日目「宗教界集会」と地域に根ざした闘いの広がりがとらえられていた。

 中でも大きな集会となったのが、12月10日のBOAシカゴ支店前の抗議行動だ。BOAは、金融機関救済のために米政府が投入した7千億ドルの一環とし て250億ドル(約2兆3千億円)もの公的資金を提供されている。ところが、リパブリック社への融資を拒否して閉鎖に追い込んだばかりか、法律(WARN 法=労働者調停再訓練告知法)が定める原則60日前の解雇通知義務も守らない。「納税者から何百億もの金をもらいながら、クリスマスを前に工場を閉鎖し労 働者を放り出すとは」。ロブレス委員長の怒りの言葉に共感の輪が広がった。「銀行は救済され(Bailed out)、われわれは売り払われた(Sold out)」のスローガンが全米各地に掲げられた。

連帯は永遠に

 解決案の175万ドルのうち135万ドルはBOAからもぎ取る(残り40万ドルはJPモルガン・チェース銀行が拠出)。BOAが得た公的資金全体からす ればわずかとはいえ、ウォールストリート(金融資本)の勝手放題にメインストリート(一般国民)の反撃が風穴を開けた画期的な勝利であることは疑いない。 現在の経済危機を克服するには何より労働者・一般国民の生活を救済しなくてはならない。そのことをシカゴの工場占拠闘争ははっきりと教えた。

 「いま世界は変わりつつある。われわれの経済を、われわれの国を奪い返そう。変革の歴史を刻もう」。発言者が続けて「シ・セ・プエデ(イエス・ウィー・ キャンの基になったスペイン語)」と叫ぶと、会場全体が「シ・セ・プエデ」と繰り返す。集いは最後に、歌い継がれてきた労働歌『ソリダリティー・フォーエ バー(連帯は永遠に)』を全員で歌い、「連帯は永遠に、ユニオンがわれわれを強くするから」と締めくくった。

 リパブリック労働者は今後、工場再開―自主生産への道を歩む。勝利集会の参加費(25ドル=約2300円、学生・低所得者は10ドル)を含め寄せられたカンパでそのための基金が設立される。
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