2009年03月20日発行 1076号

【撃沈まで認める「海賊新法」 戦闘に踏み込むソマリア派兵 石油権益狙う】

他国民の殺傷へ


 政府は3月4日、海賊対策のための「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」(仮称)の骨子をまとめた。10日にも法案を閣議決定し、国会 提出するという。また、14日には自衛隊法に基づく海上警備行動を発令し、海上自衛隊の護衛艦(戦艦)2隻をソマリア沖に出港させようとしている。

 海上警備行動では「保護対象」が日本関係船に限定されるが、新法案では外国船も保護できるようにした。また、武器使用権限については、海賊行為を制止す るためとして船体射撃の規定を設け、海賊船が民間船に接近してき場合、正当防衛・緊急避難に当たらない段階でも、停船させるための船体射撃を可能とする。

 政府は「海賊行為の取り締まりは警察活動。武力行使にあたらない」とごまかすが、自衛隊という武装組織(しかも海自特別警備隊という特殊作戦部隊が乗り 込む)の武器使用はまさしく組織的な実力行使だ。憲法9条の禁ずる「武力の行使」にあたり、自衛隊はついに他国民の殺傷に踏み出そうとしているのである。 さらに、日本の領海内が前提の海上警備行動を1万キロも離れたソマリア沖派兵に発令するなど自衛隊法にさえ違反している。憲法と法治国家の根幹を破壊する 暴挙を許してはならない。

豊富な地下資源

 政府もメディアも「海賊対策」を看板に掲げる。だが、東南アジアで「実績」を持つ海上保安庁の巡視船ではなく、あくまで海自を派兵し軍事的存在を示すと いう背後には、アフリカの天然資源争奪戦に食い込みたいというグローバル資本の思惑がある。

 ソマリアは、エチオピア、スーダンといったアフリカ諸国と米欧アジアをつなぐ鉱産物資源・エネルギーの輸送中継基地として重要な位置にある。

 米国は昨秋、米軍再編の一環として「アフリカ総司令部」を創設した。「海賊対策」の口実で国連安保理決議まで上げ、ここまで軍事的テコ入れを強める最大 の動機は、アフリカの豊富な天然資源の確保にある。

 『米エネルギー省2006年報』等によれば、米国はすでに国内消費の原油のうち、ペルシア湾岸諸国からの輸入量を上回る18%以上をアフリカから輸入 し、2015年までには25%に達する。また、米議会調査報告は「米国の国益に占めるアフリカのエネルギー等天然資源の戦略的な重要性はますます高まる」 と指摘。その狙いをあからさまに語っている。

 ソマリアからマダガスカルまでの東アフリカ沿岸部の石油資源は、質こそ多少劣るものの、埋蔵量はサウジアラビアをしのぐともいわれている。グローバル資 本の資源探査組織である石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、東アフリカが石油・天然ガス探鉱の「最後?の処女地」(石油天然ガスレ ビュー、06年5月)と推奨し、外務省もソマリアが海洋資源と石油資源が豊富な国であることに言及している。

 原油高を背景に新たに探鉱投資に打って出たい国際石油企業の中には、既存産油国は国営石油企業の独占打破が困難なことから、比較的条件が有利な東アフリ カへ進出する企業もでてきている。事実、コンゴ共和国にはENI、マダガスカルにはTOTAL、モロッコにはXtractという国際石油企業が非在来型石 油資源(通常の油田・ガス田以外から生産される)確保に進出している。

 ソマリアには、80年代末までは米国の石油メジャー(多国籍大手石油企業)が進出していた経過もあり、再びメジャーが動き始めている。そんな中で、現在 は中東だけに大きく依存している日本のグーロバル石油企業もバスに乗り遅れるなというわけだ。

憲法に基づく貢献を

 「海賊」発生の根本原因は、ソマリアの内戦による無政府状態と先進国船の乱獲による漁民などの生活破壊・貧困にある。また、海賊の武器は米英やロシア、 ドイツなどが紛争勢力に売りつけたものだ。

 日本は欧米諸国と違いソマリアを植民地支配しておらずソマリア国内の平和回復と生活改善に寄与しやすい立場にある。軍隊の派遣ではなく、乱獲取り締まり や武器売買の規制など平和憲法を活かした方策こそ行なうべきである。

 事実を知らせソマリア派兵ノーの声を広げて海上警備行動発令と新法を阻止しよう。
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