2009年09月18日発行 1100号

【本当はどうなの? 「新型インフルエンザ」 〈寄稿〉医療問題研究会 林敬次さん インフル自体は怖くない 危ないタミフル、効かないワクチン】

  「新型インフルエンザ」の流行の中で、政府・マスコミの「恐怖」キャンペーンがくり返され、効果もないワクチンの製造・輸入や危険性の高いタミフルのやみ くもな使用が推奨されている。この異常な「インフル騒ぎ」をどう考え、どう対処すればいいのか。医療問題研究会代表で小児科医の林敬次さんに寄稿しても らった。

つくられた「怖さ」

 「新型インフルエンザ」(以後「新型」)が怖いです、とおっしゃるお母さん方に、何が怖いんですか? と聞きますと、「何となく」の方が多いようです。これは、マスコミ・政府一体となった、怖さ作りの結果です。

 8月15日に死亡第1例が発表されて以来、死亡者や重症者の症例が厚労省から毎日プレスリリースされ、「死亡」「脳症」「重体」などが日々報道されます と、怖くなるのは当然です。これは、インフルエンザ関連の常套化した報道です。自動車事故を毎日このように報道すれば、車を買う人がずっと少なくなると思 いますが、決してそんな報道はしません。

 責任ある立場の人は、「新型」が大変重症になりやすいとか、強毒化したなどとは一つも発言していません。厚労省ホームページも「感染してもほとんどは軽 症で回復する」と書いているのです。検疫の無効性と同様に、私が本紙1084号で「普通の風邪対策で十分」と皆さんにお伝えした通りになったのです。

脳症の大半は薬害

 「新型」はある程度流行し、発病者は8月3日から23日の間に31万人と推定(国立感染研)されています。これが正しいとすると、同時期に「新型」で亡 くなった方は5人ですので、死亡率は6万人に1人ほどです。仮に人口の3割が発病したとしても全国で600名程度の死亡数となります。年間千人から1万数 千人が死亡すると「推定」されている「季節性」よりずっと少ないことになります。

 また、亡くなった方のほとんどは重症の基礎疾患をもっておられ、「新型」でなくても何かの病原性ウイルスに感染すれば生命の危険性が高かった方々です。

 「インフルエンザ脳症」は怖さを強くアピールします。実はこの表現、脳症がインフルエンザによるものと印象づけるために意図的につけられた病名です。以 前、脳症は年間500人以上発生していました。しかし、薬害問題に詳しい浜六郎氏が主な原因は消炎鎮痛剤であることを発見。私たちMDSの医者も参加して この薬の危険性を訴え、ほぼ使用されなくなると同時に脳症も激減し、今では100人以下になっています。喘息治療薬テオフィリンなども原因になっており、 大部分が「薬害脳症」なのです。

 また、私たちはタミフルの副作用による脳症が発生していることを訴えてきました。さらに、錯乱などの精神症状もタミフルを飲むと1・6倍にも増加しま す。プレスリリースされる脳症例でも、タミフル服用後の発症が多い傾向があります。脳症が怖いのなら危険な薬を飲まないことです。

 もちろん、インフルエンザが大流行すれば肺炎などの合併症で入院する方が増えます。十分な治療を受けられる医療体制の拡充が最も優先されるべきことは、前回に述べた通りです。

効果ないのになぜ

 舛添厚労相は早々に「新型」ワクチン開発を打ち上げ、つい最近まではワクチンこそ救世主かのような論調が流布されました。しかし、昆虫の細胞でなく、卵 を使った培養しかできない日本では、1500万人分程度しか供給できないことがわかり、厚労相が輸入を言い出しました。すると、日本のワクチン会社と親し い「学者」たちは、外国製のワクチンが安全でないなどと言い始め、輸入政策に水をさすようになりました。

 それはともかく、ワクチンが流行を阻止できないことは厚労省も認めるところです。さらに、私たちは、日本のワクチンは発病予防も症状軽減効果もないこと を証明して学会に報告しています。世界的にも効果を示す厳密な研究はほとんどなく、2歳以下では効かないことを証明した研究が一つあるだけです。

 「季節性」のワクチンでさえ効果を証明できていないのに、どうして「新型」のワクチンに効果があると言えるのでしょうか。

 今年は「季節性」と「新型」との2種類でワクチン業界は大もうけです。こんな追い風の業界に、さらにインフルエンザワクチンの新技術開発費として 1700億円の予算が組まれているのです。そればかりか、効果なくひどい副作用が予想される「鳥インフルエンザ」ワクチンの備蓄を3倍にすることまで決定 されました。

 これほどまでに、ワクチン会社を優遇する政策は、単に日本のワクチン行政だけでは説明がつきにくいと思われます。ワクチンは生物兵器と深い関係を持って います。湾岸戦争に参戦した兵士は炭疽(そ)菌をはじめ多くのワクチン投与をしていました。平和と相いれないワクチン開発に利用されないためにも、効かな いインフルエンザワクチンへの出費はやめるべきです。

妊婦・乳児は厳禁

 日本では、インフルエンザが疑われれば即タミフルの使用が奨励されました。そのため、今年はなんと昨年の6倍も使ったそうです(世界では3倍)。

 「新型」を機に、WHO(世界保健機関)はこれまで使用を制限してきた乳児を含めた5歳未満、それに妊婦にも使えと勧告しました。それでも、日本とは違い5歳以上の健康な人には不要、としていることに注意してください。

 とはいっても、この勧告には科学的根拠が全くありません。妊婦では、動物実験で母体・胎児ともに重大な副作用が予想されるにもかかわらず、たった90人 の日本人妊婦の観察で心臓奇形が1人だったから安全、としています。さらに、製造販売会社ロッシュでさえダメとしている乳児にも投与しろとしたのです。私 は浜氏の指導をうけ、ロッシュが行った動物実験で未熟な子どもほど低体温や突然死が多くなること、人間の乳児の調査で大変危険な低体温が多く出ることなど を学会報告しました。それらを覆す安全性を証明したデータなど全くないのです。その他、タミフルには突然死をはじめ重篤な副作用も多々あり、どの世代にも 使うべきでありません。

 一介の医者がWHOを批判するのはおこがましいと思われる方も多いかと思います。しかし、新自由主義の浸透で製薬企業の寄付金で運営されている部門が多 いWHOでは、製薬企業の無茶な意向に従うことが多々あるのです。WHOを少しでも科学的な立場に変えることも新自由主義との重要な闘いとなっているわけ です。

 今後、「新型」にかかる人は増えるかも知れませんが、「季節性」と同様の対策で良いと思われます。にもかかわらず、家族がインフルエンザだと、会社を休 まされるという話まで聞きます。これは流行予防には全くならず、ましてや無給ではたまりませんので、これを機会に有給化を要求するなど、労働条件改善に変 えていく視点も重要かと思います。
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