2010年01月01日発行 1115号

【教育の機会均等を作る制度に ローンでなく給付制に 「奨学金」を考えるシンポジウム2】

 「奨学金」は今や若者を借金漬けにし貧困に追いやるものとなっている。給付制度への転換を求め「教育の機会均等を作る『奨学金』を考えるシンポジウム2」が12月19日、都内で開かれた。

 09年4月12日の第1回に続くもので、日本学生支援機構労組、各種学校専修学校関係労組連絡協議会、首都圏なかまユニオンで構成する実行委員会が主催した。

「教育の責任は親に」

 昭和女子大学教授の矢野眞和さんが「高学費の高等教育政策の転換を」と題して基調講演を行った。

 大学授業料と可処分所得を対比したグラフを示し、90年以降は収入が減少する一方で高騰し続ける教育費が労働者の生活を圧迫している実態を明らかに。 「『教育の責任は社会ではなくて親にある』−この価値観を背景にした教育費の私費負担主義の転換を。基礎学力があれば金がなくても誰でも入れる真の全入制 度が必要だ」と訴えた。奨学金制度について「日本に『奨学金』はない。あるのは国立の低利消費者ローン。低所得者にとっては親子でローンを引き継いでいく 貧しさの相続だ。給付金を拡大しなくてはならない。貸与の場合も、本人が収入に応じて無理なく返済できるようにして、親に依存する体質を転換すべきだ」と 提言した。

 パネルディスカッションでは奨学金事業の現場で働く労働者、貸与を受ける学生、返還にあえぐ当事者らが並んだ。

 学生支援機構労組書記次長の岡村稔さんは、支援機構に寄せられる相談は08年の2倍を超える月30万件にも及び、「低所得・失業」などの本人の貧困に加 えて「親の債務返済」が急増している実態を報告。「無利子や給付制の奨学金の拡大」「延滞者のブラックリスト化の撤回や相談体制の確立」などが必要とし、 「政権交代を受け、これまでの支援機構などへの要請運動をさらに強めて教育無償化の歯車を動かそう」と呼びかけた。

 全国大学院生協議会の青島希さんは、大学院生の生活実態調査の結果を報告。「将来の不安を抱える院生は70%以上で、返済が不安で借りられないという回 答が26%。返還免除申請の制度を知らない人は3分の1以上も。『総額は600万円で生活が壊れていくようで怖い』『返済のアルバイトで体を壊した。教育 権・生存権の侵害』と答えた人もいる。自己責任という言葉で片づけられるのか」

予算試案も発表

 生活保護家庭で育った女性は、建設企業から不当解雇され保険会社で働いている。契約ノルマの達成に自腹を切る生活で手取りは9万円にしかならない。「給付奨学金の復活や働きながら学べる制度の拡充を。免除の手続きに協力するなど企業モラルの向上も必要」

 コンピュータ会社で働く首都圏なかまユニオンの男性組合員は解雇通告の撤回をかちとったばかりだ。「給料は下がり続けて、これからどうなるのかと不安でいっぱい。教育の機会均等が保障される社会を」と訴えた。

 前回のシンポでは(1)ブラックリスト化の撤回など延滞対策の見直し(2)返還猶予制度・返還方法の抜本対策(3)学費免除制度などの緊急提言が発せら れた。この日は、提言実行のための予算試算が発表された。ブラックリスト化撤回など予算措置なしに実施できるものも多く、返還猶予制度の大幅な拡充や高 校・大学の授業料免除制度を実現しても総額2千億円程度で可能だ。

 首都圏なかまユニオンの伴幸生さんは「奨学金問題は非正規雇用とともに若者の生活権の問題。前回シンポ以降、ホットラインや院内集会を開催して、返還猶 予の集団申請や猶予条件の内規をオープンにさせるなどの変化も生まれている。1月開会の国会中に再度院内集会を開き、運動を強めて制度の転換を実現しよ う」とまとめた。
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