2010年02月19日発行 1121号

【検証 8年目のイラク戦争(3) 大量破壊兵器−−使ったのは米軍 拡大する放射線被害】

  「隠された大量破壊兵器。サダム・フセインの脅威」―イラク攻撃を正当化するために人々に植えつけられた恐怖は、イラクで”現実”となった。ただし、使っ たのはサダムではなく米英軍、そして被害を受けたのはイラク民衆だった。19年前の湾岸戦争時に使用された放射線兵器による被害に今回のイラク戦争で使用 された被害が重なる。戦争被害は今後何年、何十年も続いていく。(豊田護)

急増する異常出産

 イラクの都市ファルージャでは、若い女性が子どもを産むことをこわがっている。頭がない、2つの頭がある、目が1つ、手足の一部が欠損、そんな新生児の数が増えている。幼児は小児ガンや白血病に苦しんでいる。

 09年9月ファルージャ総合病院で生まれた170人の新生児のうち24%が1週間内に死亡し、その4分の3に形態異常があった。イラク戦争前の02年8月の記録では、530人の新生児のうち、1週間以内の死亡数は6人で、形態異常は1人だけだった。

 ファルージャの医師たちが指摘するのはこうした先天性欠損症だけではない。03年の戦争以降、未熟児が急増していることもだ。つまり、生き延びても重度の障害を抱えることになる―。

 これは、国連に調査などを求める要請署名に取り組んでいる、英国の「イラク連帯」というグループが明らかにした内容だ。ファルージャ以外にも、バグダッドやバスラ、ナジャフの名もあがっている。

 ファルージャはバグダッドの西約70キロメートル。ヨルダンと結ぶ幹線道路沿いにある。03年4月、学校を占拠する米軍に退去を要求する住民のデモに米 軍が発砲し、多数の犠牲者が出た。翌04年3月には民間戦争請負会社ブラックウォーター社の兵士が武装集団に殺害された事件をきっかけに、米軍はファルー ジャの街を包囲し続け、病院までも破壊する無差別攻撃を度々行った。その時使われたのがウラン兵器や白リン弾など放射線・重金属・化学物質による重大な障 害を引き起こす兵器だ。その被害が現実のものとなった。そして占領軍に包囲され、爆撃された第2、第3のファルージャがある。

ウラン弾の脅威

 大量破壊兵器とは、一般的にNBC兵器―核(N)生物(B)化学(C)兵器をいう。人間や建物などを大量に破壊する能力をもつため、非戦闘員=一般住民 をも無差別大量に殺害する。特にNC兵器は爆発時だけではなく、遺伝子を傷つけ世代を越えて被害が続く悪魔の兵器といえる。これらをサダムが隠し持つとウ ソの情報を吹聴し、始めたイラク戦争だった。テロ組織の手にわたり、いつ使われるかもしれない。そんな恐怖をまき散らし、人々を戦争支持へと駆り立てて いった。

 だが、実際に使用したのは他ならない米英軍であり、大量殺害の恐怖にさらされたのはイラク民衆だった。米英軍はどんな武器をどこで、どれだけ使ったのか明らかにしていない。ウラン弾の使用はしぶしぶ認めている。

 ウラン弾とは、主に原発の廃棄物である劣化ウランを使って作られた爆弾や砲弾・弾丸類だ。天然ウランに比べ放射能が多少低いことから、原発に使用する濃 縮ウランとの対比で”劣化”の名がつけられているが、殺人兵器としての殺傷能力が劣るわけではない。ウラン弾は着弾時に高温を発して燃焼し、細かい粒子と なって飛び散る。このチリを吸い込むと、放射性物質が長く体内にとどまり、遺伝子を傷つけるのだ。

 本格的に使用されたのは19年前の湾岸戦争だった。当時、米英軍は約300トン(公式発表)のウラン弾をクウェート国境近くの砂漠地域に撃ち込んだ。数 年後、新生児の先天性欠損症などの発生率は急増した。そして今回のイラク戦争では、その数倍のウラン弾がどの地域に対する攻撃にも使用された。その被害が いま表れたのだ。

調査し汚染除去を

 記者は戦争前、バスラ大学付属病院やバグダッド子ども病院で、白血病に苦しむ多くの子どもたちを取材した。戦争後の取材で、放射線の程度を計った。バグ ダッド近郊に放置された戦車からは通常の1900倍の放射線が、自衛隊が居座ったサマワでは破壊された高射砲台から400倍の放射線が計測された。サマワ 産科小児科病院では先天性欠損症の新生児の写真を提供してくれた医師がいた。初めての経験だと言った。

 イラク戦争の大規模な戦闘行為は3月20日から4月30日の40日間に過ぎないが、その後の占領下でも、民衆に向けた銃撃、爆撃は続いている。犠牲者の数は130万人を超え(米NGOジャスト・フォーリン・ポリシー http://www.justforeignpolicy.org/)、今も増え続けている。仮に占領軍が撤退しても、撃ち込まれたウラン弾の放つ放射線はほぼ永久に続いていく。

 イラク民衆がさらされている恐怖は、日々の安全すら保障されていない中で、なおかつ明日の希望でもある新世代に重大な障害が生じている、ということである。戦争犯罪を認めさせ、調査と汚染除去の責任を取らせなければならない。   

  (続く)
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