2010年11月26日発行 1159号
【TPP(環太平洋連携協定)とは何か 新自由主義で雇用も農業も破壊 グローバル資本はぼろ儲け】
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菅内閣は11月9日、TPP(環太平洋連携協定)への参加に向け協議を始めるとの方針を閣
議決定した。10月1日の菅首相の参加表明からわずか1か月あまりでのスピード決定である。しかし、TPPはグローバル資本をぼろ儲けさせる「究極的自由
貿易システム」であり、危険きわまりない。
例外なく関税ゼロ
TPPは、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国が2006年に発足させた。環太平洋地域におけるEPA(経済連携協定)の一種であ
る。その後、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが参加を表明し、拡大してきた。原則としてすべての品目について関税を撤廃し、例外
なく自由化に移行させる。他の貿易協定が重要品目については高関税を認めるなどの例外を含んでいるのに対し、TPPはそうした例外を一切認めない点に大き
な違いがある。
この時期にTPPが浮上してきた背景には、WTO(世界貿易機関)の失敗がある。1995年に発足したWTOは、自由貿易によって損失を受ける発展途上
国に猛反発され、13年間の協議は決裂を繰り返した。そして、ついに2008年7月、最後の交渉といわれたドーハ・ラウンドも決裂、解体した。
この失敗を「打開」し、いっそう新自由主義を推し進めるため、グローバル資本が持ち出してきたのがTPPだ。
自給率10%台で農業壊滅
TPP参加となった場合、最も深刻な影響を受けるのが農業である。現在、「重要品目」として自由化の例外となっているコメは、700%を超える関税に
よって内外価格差を埋める措置がとられており、なんとか自給体制を維持している。農水省の試算によれば、TPP参加で食糧自給率(カロリーベース)は現在
の40%から13%に低下、関連産業を含めた実質GDPは1・6%(7・9兆円)、雇用は340万人も減少する。
それだけではない。この試算には、数字には現れない環境保全や保水などによる水害防止、地域社会の維持といった農業の「多面的機能」の価値は含まれてい
ない。こうした多面的機能は年間8兆円にもなる(日本学術会議による2001年の試算)。
TPPは、こうした多面的機能をも崩壊させる。「自由貿易」による損失は計り知れない。
許し難い前原暴言
前原外相は、10月19日の講演で「日本の国内総生産(GDP)における第1次産業の割合は1・5%だ。1・5%を守るために98・5%のかなりの部分
が犠牲になっているのではないか」と発言した。これはとんでもない暴言であり、許し難い。
日本の食糧自給率40%は先進国で最低とされるが、その40%を歯を食いしばって守っているのは1・5%の農業者である。逆に、コンマ以下、ほんの一握
りのグローバル資本が、国民の大部分を占める労働者を安くこき使い、踏みつけているのが日本経済だ。
にもかかわらず、前原はまだ規制緩和と自由化は足りないという。自らを「市場原理主義者」というだけのことはある。前原が漏らしたこの一言こそグローバ
ル資本の本音だろう。
一方的なマスコミ報道
新自由主義を推し進める政府・グローバル資本の意を受けたメディアは、TPP参加に世論誘導するため、一方的な報道を繰り返している。「TPPに参加し
ないと日本は世界の孤児になる」などと恫喝し、国民を際限のない自由競争原理に従わせようとしている。
多くのメディアは、経済界主催のTPP推進の集会(11月1日)は大々的に報道する一方、全国農業協同組合中央会(全中)と全国農業者農政運動組織連盟
(全国農政連)の主催で1千人が参加し、TPP反対を決議した全国集会(10月19日)には一言も触れなかった。グローバル資本の利益のためならなりふり
構わない「偏向報道」だ。
燃え上がる反対
メディアのTPP推進キャンペーンにもかかわらず、TPP反対の声は急速に拡大している。10月19日の全中、全国農政連の集会では「自由化と食料安全
保障の両立は不可能だ」「TPP参加を検討すること自体が許せない」など激しい反発の声が相次いだ。全中は、茂木守会長名で「TPP交渉への参加には反対
であり、絶対に認めることはできない。断固反対していく」とする談話を発表。11月10日、全中と全国漁業協同組合連合会(全漁連)が共催した集会は、3
千人の農業者たちが会場の日比谷野外音楽堂を埋め尽くした。メディアもこうした集会を報道し始めた。
自治体でも、北海道議会・鹿児島県議会がTPP参加反対の意見書を可決するなど、地方を中心に反対の声はますます強まっている。
大企業栄えて国民滅ぶ
結局、TPPは、政府によるあらゆる産業保護政策を撤廃させることで、弱肉強食の新自由主義を隅々まで貫徹させる「自由貿易協定の最終的形態」というべ
きものだ。
農業に限らず、この協定が発効すれば、グローバル企業は安い原材料と人件費を求めて海外に移転し、いっそう多くの利益を得るようになる。先進国ではいっ
そうの失業と賃下げ、発展途上国においては環境破壊と先進国資本による経済的植民地化が推し進められ、労働者や社会的弱者は破滅の底に突き落とされる。
TPPの真実が明らかになれば、民衆の抵抗はさらに強まる。WTOのように破たんさせることも可能だ。世界の労働者と連帯し、グローバル資本のための
TPPを葬り去らなければならない。
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