2011年01月14日発行 1165号

【こんなにあるドラマの嘘/侵略隠して「あかるい明治」/あきれたジコチュー史観】

 『坂の上の雲』における歴史の歪曲は、たくさんありすぎて書ききれない。ここでは放映済み 回の中から主な事例を紹介する。

■第3回「国家鳴動」

 この回で問題にしたいのは、「日清戦争とは何か」という解説部分である。画面は北東アジア全域の地図を映し出し、そこに大陸から朝鮮半島・日本列島に向 けて進軍する兵士のアニメが重なる。そして、ナレーション。「日本は朝鮮半島が他の属領になってしまうことを恐れる。そうなれば玄界灘を隔てるだけで日本 は他の帝国主義的勢力と隣接せざるを得なくなる」

 つまり、“日本は安全保障上の観点から「朝鮮の独立」のために出兵した。侵略的意図はなかった”と言いたいのだろう。嘘八百もたいがいにしてほしい。日 本軍の第一撃はソウルの朝鮮王宮に向けたものだった。「清国軍攻撃」の要請文を無理やり朝鮮国王に書かせるためである。

 しかも日本軍は朝鮮農民軍の抗日闘争を「皆殺し作戦」により鎮圧した。朝鮮民衆にとって日本軍は、まぎれもない侵略軍だった。

■第4回「日清開戦」

 東郷平八郎率いる巡洋艦「浪速(なにわ)」が清国兵を満載した英国汽船を撃沈した。東郷の行為は非難を浴びたが、国際法上合法であることが判明。英国の 世論も納得した…。

 このエピソードでは渡哲也演じる東郷の毅然とした態度が印象的だ。「今の弱腰政治家は見習ってほしい」と思った人も多いのでは。だが、この事件にはドラ マが描かなかった続きがある。撃沈により千人を超える乗員が海に投げ出されたが、「浪速」が救助したのは船長など4人のヨーロッパ人のみ。清国兵には機関 銃を浴びせたのである。

■第8回「日露開戦」

 このドラマには一般市民の姿がほとんど出てこない。たまにナレーションで語られるときは、「戦争準備のための重税によく耐えた」とか「開戦を熱烈に支持 した」といった話ばかり。

 民族一丸の「祖国防衛戦争」を強調したいのだろうが、大軍拡予算に対する民衆の不満が「ほとんど出なかった」とは、作り話にもほどがある。ではなぜ当時 の内閣が立て続けに倒れたのか、説明してほしい。

 また、世論は必ずしも戦争支持一色だったわけではない。内村鑑三らキリスト教者、幸徳秋水ら社会主義者などが、それぞれの立場から戦争反対の論陣を張っ ていたのである。

■第9回「広瀬、死す」

 第2部の最終話は「近代というもののおそろしさを…日本人は血であがなうことになる」というナレーションで締めくくられる。次回で描く旅順総攻撃(二〇 三高地攻防戦)のことだ。

 だが、旅順で血を流したのは日本人だけではない。旅順は日清戦争時に、日本軍による中国人虐殺が起きた土地なのだ。この事実をはじめ、『坂の上の雲』は 自国の蛮行をことごとく無視している。こんなジコチュー史観ではアジア諸国と真の友好は結べない。
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